特集 1

⻘⼭学院史研究所
〜その役割と展望〜

⻘⼭学院⼤学附置研究所として「⻘⼭学院史研究所」を2021年4⽉に開設

⻘⼭学院は2024年11⽉に創⽴150周年を迎えます。創⽴150周年を記念する事業として、⻘⼭学院では、2014年から『⻘⼭学院⼀五〇年史』の編纂を開始し、資料センター内に「⻘⼭学院150年史編纂室」を設置いたしました。この2021年4⽉1⽇から、この年史編纂室を発展させ、⻘⼭学院⼤学附置研究所「⻘⼭学院史研究所」が開設されました。

⻘⼭学院史研究所の役割

⻘⼭学院史研究所所⻑、⽂学部 史学科 教授

⼩林 和幸

⻘⼭学院⼤学 ⼤学院⽂学研究科 博⼠後期課程満期退学。博⼠(歴史学)(⻘⼭学院⼤学)。同⼤学⽂学部 助⼿、宮内庁 書陵部 主任研究官、駒澤⼤学 ⽂学部 助教授などを経て、2006年より⻘⼭学院⼤学 ⽂学部 教授に着任し、現在に⾄る。2021年4⽉、⻘⼭学院史研究所所⻑に就任。主な著作に、『明治⽴憲政治と貴族院』(吉川弘⽂館、2002年)、『⾕⼲城―憂国の明治⼈』(中公新書、2011年)、『「国⺠主義」の時代 明治⽇本を⽀えた⼈々』(⾓川選書、2017年)など。

2021年4⽉に開設した⻘⼭学院史研究所では、本学が収集した諸資料を研究して、創設以来の本学の歴史を明らかにするとともに、⾃校史教育への貢献も⽬指しています。同時に、近代⽇本におけるキリスト教⽂化の影響や⽇本近現代史研究の発展に貢献することを⽬指します。これらの達成に向け、当研究所では以下の5つの役割を担います。

(1)⻘⼭学院の学院史編纂
⽇本近代史上の⻘⼭学院の歴史的役割を実証的に研究し、その研究の成果を⻘⼭学院史関係書籍あるいは報告書や研究紀要として刊⾏する。2024年の⻘⼭学院創⽴150周年までは、『⻘⼭学院⼀五〇年史』の編纂を優先的な業務とする。年史編纂の終了後も、将来の学院史編纂のために必要な事業を継続し、得られた成果を公表する。

(2)⻘⼭学院を中⼼とするキリスト教主義教育の歴史に関する研究
本学内の諸学部・設置諸学校の枠を越えた全学院的な共同研究機関と位置づけ、必要に応じて研究プロジェクトを設けることにより、設置諸学校ならびに学院外の研究者とも隔てなく連携して、キリスト教主義教育ならびにキリスト教⽂化に関する歴史的研究を推進する。

(3)⻘⼭学院関係資料の収集・調査
⻘⼭学院資料センターの業務と連携して、⻘⼭学院・学院出⾝者・関係者に関する資料を収集し、調査研究を⾏う。あわせて、学院史編纂のために収集した資料の整理を⾏い、研究・教育への利⽤を促す。

(4)⻘⼭学院に関する歴史的研究成果をふまえた教育
⻘⼭学院史関係の調査研究を通し、得られた研究の成果を、設置諸学校での授業⽀援・講義などに活⽤するとともに、講演会などの活動を通じて社会に還元する。

(5)その他
資料センターが⾏う⻘⼭学院が設置する博物館(博物館相当施設としての基準を満たす施設)の開設準備に協⼒する。また、充実した⾃校史教育を⾏うため、⼤学附置の研究・教育組織としての任務を果たす。

『⻘⼭学院⼀五〇年史』資料編(Ⅰ巻・Ⅱ巻)を刊⾏

現在、当研究所は(1)に従い『⻘⼭学院⼀五〇年史』の編纂を主な任務としています。『⻘⼭学院⼀五〇年史』は、⽂字資料を中⼼とした資料編(Ⅰ巻・Ⅱ巻)、通史編(Ⅰ巻・Ⅱ巻)、ビジュアル資料を中⼼にまとめた別冊『写真に⾒る⻘⼭学院150年』の3種類から構成されています。

資料編第Ⅰ巻は、戦前編として本学院の源流のひとつである「⼥⼦⼩学校」等の資料から始まり、第Ⅱ巻は戦後編として2021年1⽉現在までの資料を掲載しています。編纂に当たっては理事会記録などの公的資料を優先しつつも、当時を過ごした⽅の回顧録や学内の刊⾏物といった⾝近な資料も掲載し、「読んで分かる資料集」を⽬指しています。また本学の特徴である学院設置校間の等しい関係性を反映し、⼤学以外の各設置学校に関する資料も可能な限り掲載しているのも『⻘⼭学院⼀五〇年史』の特⾊と⾔えると思います。

資料編、通史編、『写真に⾒る⻘⼭学院150年』といずれの巻も客観的な史資料に基づく実証的な研究の上に成り⽴つもので、歴史書として学術的な評価に⾜るべきものを⽬指しています。2019年3⽉には資料編第Ⅰ巻を、2021年3⽉には資料編第Ⅱ巻を刊⾏し、現在は通史編の第Ⅰ巻および別冊『写真に⾒る⻘⼭学院150年』の編纂を進めています。

なお既刊の⻘⼭学院が編纂した通史は、『⻘⼭学院九⼗年史』や『⻘⼭学院⼤学五⼗年史』、『⻘⼭学院⼥⼦短期⼤学六⼗五年史』など、が刊⾏されておりますが、⻘⼭学院全体を対象とした通史として、今回の『⻘⼭学院⼀五〇年史』は、近年の歴史研究を踏まえた新しい「通史」という位置づけとなります。

今回、通史の発刊まで⾄った背景としては、戦後の新制学校としての草創期から⼀定のときを経たことで、学院の歴史的評価がある程度定まってきたと考えられること、また学院史編纂事業に関して、理事⻑・学院⻑・学⻑をはじめとした学院内の深いご理解が得られたことがあります。その結果、当研究所が開設されるに⾄り、充実した学院史編纂事業を進めるに必要な環境が整えられました。

『⻘⼭学院⼀五〇年史』編纂の基盤となるのは各種資料の収集・検証作業です。しかし関東⼤震災や⼤戦時の空襲等によって当時の資料の⼤部分が焼失しているため、学内に残された資料は多くなく、そのため資料収集に当たっては、東京都公⽂書館などの各公的機関をたずねるとともに関係⼈物の個⼈資料なども利⽤する必要があります。また今般の新型コロナ禍中にあっては、学院への⼊構制限や諸機関の閉鎖といった多くの困難が⽣じましたが、研究所が⼀丸となって編纂を進めた結果、当初の予定⽇通り、資料編を刊⾏することができました。

現在、当研究所では、所⻑を務める私以外に数⼈のスタッフで作業を進めています。原稿の執筆なども含めた編纂作業には⾼い専⾨性が求められるため、スタッフの中でも特に2名の助⼿や編纂補助員の⽅たちの尽⼒が⼤きな意味を持ちました。『⻘⼭学院⼀五〇年史』の編纂は彼らがいなければ達成できない仕事であり、⽇々の仕事ぶりにはいつも感謝しています。

『⻘⼭学院⼀五〇年史』資料編(Ⅰ巻・Ⅱ巻)


しおりは⼤学陸上競技部(⻑距離ブロック)のたすきの⾊「フレッシュグリーン」をイメージ

皆さまのおかげで、折り返し地点にきました
⻘⼭学院史研究所 助⼿ ⽇向 玲理

専⾨は⽇本近現代史です。近年は⽇本の軍医が朝鮮や中国に進出していく時期の史料を読み、研究を⾏っています。朝鮮・中国におけるキリスト教の布教状況を外交官や軍⼈はどのように捉え、何を問題としていたのかなど、さまざまな興味が尽きません。私は、2021年3⽉に刊⾏された資料編Ⅱでは終戦後から現代までの通史を扱う「第⼀部 ⻘⼭学院の復興と発展」を担当しました。2022年度刊⾏予定の通史編Ⅰでは、主に⼤正・昭和期の⻘⼭学院を担当しています。『⻘⼭学院九⼗年史』以来の本格的な正史でしたので、資料編2冊の刊⾏を終えたときはホッとしました。これもひとえに学院関係者皆さまのご助⼒のたまものです。とりわけ、編纂を成功させようとする⼩林和幸先⽣の存在の⼤きさを感じます。今後は通史編2冊や『写真に⾒る⻘⼭学院150年』の準備が控えており、気が抜けない⽇々が続きます。

⾮常に重みのある本の編纂を担当させていただきました
⻘⼭学院史研究所 助⼿ 佐藤 ⼤悟

私も⽇向先⽣と同様⽇本近現代史を専⾨としており、明治時代の地⽅史誌の編纂事業について全国各地の公⽂書館や図書館に残された史料を集めて分析しています。過去の編纂者たちが残した史料には、学院史の編纂に当たって私が⽇々感じていることと似たような考えや悩みを多数⾒いだすことができます。『⻘⼭学院⼀五〇年史』の編纂において、資料編Ⅱでは戦後の各設置学校の歩みを扱う「第⼆部 設置諸学校の発展」を担当しました。通史編Ⅰでは、主に明治期の⻘⼭学院・⻘⼭⼥学院を担当しています。2020年の着任時からコロナ禍に⾒舞われ、学⽣のいないキャンパスしか知らないまま編纂に携わることにいささか不安がありましたが、これまでの学院史編纂の蓄積や、⼩林先⽣はじめ編纂にあたる皆さんのご助⼒により、どうにか資料編Ⅱの編纂を終えることができました。893⾴に及ぶ資料編Ⅱは、私にとって⾮常に重みのある本となりました。

学院史研究の意義、そして展望

そもそも⻘⼭学院の歴史を研究する意義とはどういった点にあるのでしょうか。例えば創⽴からの歴史を明らかにすることで建学の精神を再確認し、今後の⾰新の礎とすることなどが考えられます。またスクールアイデンティティーの醸成なども⾃校史教育に求められる⼤きな意義の⼀つと⾔えるでしょう。

これらに加え、実際に『⻘⼭学院⼀五〇年史』の編纂を進めるにつれて⾒えてきたことがあります。それは⻘⼭学院および学院の創設に関わった⼈々が歩んだ道のりが、⽇本近現代史の⼤きな流れの中で重要な位置を占めており、そのため本学の歴史を研究することは欧⽶のキリスト教⽂化も受容して発展した⽇本近現代史の解明につながるということです。⻘⼭学院史研究に関する知⾒は、ただ⾃校史として本学関係者の間のみに留めるのではなく、他⼤学も含めた歴史研究者の中でも広く共有すべきだと考えるようになりました。『⻘⼭学院⼀五〇年史』編纂に関しても、⽇本の歴史研究に広く貢献するという志を持って取り組んでいます。

今後は、通史編の第Ⅰ巻および第Ⅱ巻を順次、刊⾏し、さらに『写真に⾒る⻘⼭学院150年』を、学院創⽴150周年の記念⽇である2024年11⽉までに刊⾏する予定です。

『⻘⼭学院⼀五〇年史』の刊⾏を終えても学院史の研究そのものは継続されていきます。研究所の役割(4)の通り、その成果は本学の教育⽀援や社会全般に還元されるべきものであり、既に始めている取り組みとしては本学の教育課程「⻘⼭スタンダード科⽬」への協⼒があります。さらに今後は「⽇本近代史の中の⻘⼭学院」や「キリスト教教育と⻘⼭学院」といった授業の設定や、また本学が伝統的に取り組んできた社会事業や留学制度などをテーマとして、設置学校を含めたさまざまな授業⽀援も考えられます。

本学の資料センターとも引き続き協⼒体制をもって資料収集や調査を進める他、資料センターで企画を⾏う際には当研究所員が参加者に向け専⾨的な解説を⾏うなどさまざまな場⾯で連携していく予定です。

研究所の役割(2)に関連する事業としては、当研究所を中⼼に、設置学校の関係者や他⼤学の専⾨研究者にも参加いただく「研究プロジェクト」も計画しています。これらの成果については、学内外の教育や研究⽀援に資する他、講演会やシンポジウムなどを通じて⼀般の⽅にも広く公開していくことも検討しています。

研究所の今後の⽅向性としては、近現代の⽇本における本学の歴史的な位置づけをより深く研究していく、さらには⽇本におけるキリスト教主義教育の歴史的な意義を明らかにすることなどを通じて、⽇本近現代史をはじめとした各種の専⾨分野の発展に寄与していきたいと考えています。本学の建学の精神とともに、これらの研究成果を本学学⽣や研究者、⼀般の⽅々に正しく伝え、より深く理解していただけるよう活動を進めていきます。

研究者との連携の⼀環として開催されたシンポジウム

開設記念シンポジウムを振り返る⻘⼭学院史研究所 所⻑ ⼩林 和幸

2021年11⽉27⽇(⼟)に開催したシンポジウム「学校史・⼤学史研究の可能性」では登壇者の⽅々から①各⼤学略史、②年史編纂事業の現状と課題、③年史編纂事業が果たす役割と可能性についてご報告いただきました。ご報告の中で、筑波⼤学前⾝学校等の資料(アーカイブズ)と年史編纂事業の関係、東京⼤学年史編纂基礎作業の意義や歴史家としての抱負、慶應義塾における資料集編纂や研究への活⽤事例、早稲⽥⼤学の通史執筆における「Wikiシステム」の活⽤など、とても興味深く刺激的なお話があり、コメントでは、年史「資料編」の活⽤のあり⽅や年史成果の「政治史」への利⽤について、また「年史」を通じて⼤学とは何かを問う意味などの諸点が問われ、リプライや来場者との質疑応答を通じて、年史編纂や学校史研究の意義が多⾓的に明らかになりました。今回、感染防⽌対策を徹底し、対⾯で開催出来たことは、登壇者や百名近い来場者との交流が可能となり、⼤変有意義でした。今後も、学院史研究所では、こうしたシンポジウムや研究会を通じて、学院史研究の深化を図っていきたいと思います。

シンポジウムの司会・コーディネーターを務める小林所長