特集 2
Interview

GSC Dialogue
―知の共創―

時代の希求に応えるサーバント・リーダーは「共生マインド」を備えている。

地球社会共生学部(School of Global Studies and Collaboration/以下GSC)への教授就任も年齢も⼀緒で、何かコラボレーションしたいと語るおふたりの対談が実現しました。「リーダーシップ」や「共生マインド」についての熱いお話は、将来へのヒントが満載です。

地球社会共生学部 教授

原 晋

早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了。修士(スポーツ科学)(早稲田大学)。2004年青山学院大学陸上競技部(長距離ブロック)監督就任。2015年本学初の箱根駅伝総合優勝に導く。以後、数々の大会で輝かしい成績を収め、2022年箱根駅伝では大会新記録で総合優勝を果たす。2019年より現職。

地球社会共生学部 教授

松永 エリック・匡史

青山学院大学大学院国際政治経済学研究科国際ビジネス専攻修士課程修了。修士(国際ビジネス)(青山学院大学)。音楽家としての経験を生かし、デジタル時代を牽引するビジネスコンサルタントとして活躍。アクセンチュア株式会社、日本アイ・ビー・エム株式会社、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社の執行役員などを経て、2019年より現職。

違いを認め、共感し、⾼め合う。GSCで学ぶ意義であり魅⼒です。

エリック GSCはまさに今の時代に求められている学部です。さまざまな分野の専門家が集まり、共感し、共生している、VUCAと呼ばれる予測困難な時代の変化に適合している学部です。私はビジネスコンサルタントとして、最先端の国際ビジネスや最先端のデジタルイノベーションに携わってきました。企業では今、ESG(Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス))というキーワードがとても重要になっています。企業が長期的成長を目指す上で重視すべきESGの観点での配慮ができていない企業は、投資家が見向きもしなくなる。社会貢献や社会課題の解決に取り組まない企業にはユーザーも株主も見向きもしない時代なのです。ビジネスと社会課題は一体化し、社会課題を学んだGSCの学生は企業に求められる人材なのです。また、アジアにフォーカスしている点もおもしろいですよね。これからはアジアが鍵になり世界を変えていく。アジアが地球規模で世界をひとつにしていく。そういう大きな役割を日本がリードしていくという考えのもとでこの学部が創設されたので、今の時代にGSCで学ぶことは大きな意味があると思います。

 私は子どもの頃から協調性がないとよく言われてきました。自分ではそんなことはないと思っていますが、同調させる意識を世の中が常に持たせているんですね。自分と違う意見でも、周りにすり合わせていかなければいけないような風潮が作り上げられ、自分の主義主張を言ったら、協調性がないと批判されてしまう。そういう中で発展なんてあるわけないんです。GSCにはさまざまな意見を言い合い、認め合って是是非非で物事をとらえる文化があると感じます。それぞれの分野を認め合い、自分の思いというものを伝える教育を先生方が実践してらっしゃるし、私の授業でも自分の主義主張を素直に発言する学生が非常に多いです。「キャリアデザイン・セミナー」という青山スタンダード科目は、GSC以外の複数学部の学生も受講していますが、その中で一番元気がいいのがGSCの学生なんです。今までの協調性の間違えた捉え方を私はぜひ伝えていきたいし、それを認め合える文化がこの学部にはあります。

エリック 「共生」って、まず教員がそれを示さなければいけないはずです。私は元々、アーティストで、原先生はアスリートです。僕らは、いつもどうやってコラボレーションできるか話し合っています。そもそも、専門分野を超えた2人がこうして仲良くコラボレーションすること自体が普通に考えたらあり得ないでしょう。でも、これがGSCなのです。国際開発、タイの文化にとても詳しい先生や、ドローンを用いて被災地等の最新地図を作製する空間情報の分野で有名な先生がいて、専門分野が違っていても同じベクトルで学部を運営している。そういう私たちの姿から、学生たちには「共生」というものを感じて学び取ってほしいですね。共生は共感から始まり、共感のベースは尊敬です。教員同士が尊敬し合っているから、学生同士も尊敬し合うし、留学先の人も尊敬することができる。それこそがGSCのカラーなのだと思います。

 国土地理院の元院長だった先生は、「原さん、協力できることはありませんか?」と言って、箱根の映像を撮って「利用してください」とプレゼントしてくれました。我々はその映像を観ながら、イメージトレーニングしました。ドローンから撮影した箱根の立体映像を作ってくれた先生もいますしね。

エリック あれはすごかったね。違う領域の専門家が惜しみなく協力するいい関係なんですよね。人の言うことに迎合するのではなく、お互いに認め合って「おもしろいじゃん」と言える。その根本には敬意、尊敬があるんですよ。だから人の意見が聞けず、俺に物申すつもりなのかって言う先生はGSCにはいないんです。

 そうなんです、みなさんいい教育をされているんですよ。陸上競技部の部員は、可能な限りゼミナールに入るようにアドバイスしています。入ることでプラスアルファの力を発揮するんです。みんな記録が伸びるんですよ。これはもう先生方の教育のおかげです。先生方は学生たちをどう教育していくかを真剣に考えてくれるので安心してお任せできますし、逆にお任せしたいですね。

エリック やっぱり学生も共感するんですよ。私はよく学生に自分の人生を語らせます。表面的な結果だけを見るのではなく、共感できる深い部分に存在するものを引き出してあげたいという思いを常にもっているからです。そこにはいろいろな小さな成功体験があり、もちろん失敗もあります。そのプロセスもあるので、それを見て周りが勉強になる。こんなふうに努力して、こんなに素敵だなぁと。それをビジネスに生かしてもいいし、社会課題に生かしてもいいですしね。

理念の共有をベースに自律することが、リーダーにとって必要不可欠になります。

 リーダーの在り方は組織の形態によって違ってきますが、組織は何かをやろうと集まった集団、それがひとつになったものです。ですから理念、思いが必ずあるわけですよね。その理念、思いが組織全体に浸透していない時にはトップマネジメント型のリーダー手法を使うべきで、徐々にみんなが理念を共有して、自ら考え、行動する組織形態になったら仕えて導くサーバント型に変わるのは必然です。いろいろなマネジメント手法があり、その答えは時によって異なるという思想を持ちながら、組織を作っていく。そのベースが理念の共有ですね。

エリック 陸上競技部の監督になって今年で19年目ですよね。ビジネスコンサルタントとして、さまざまな大きな組織を見て思ったのが、今、求められているリーダーシップ像は原先生がつくったチームにこそあるのではないかということです。責任の移譲っていうのかな、それがある。信頼関係があるからできることですよね。マイクロマネジメントになるチームが多い中、原監督のところには自由がある。自由があるからこそ彼らも自主的に責任を持つ。個人個人が責任感を抱くということは、実は全員がリーダーシップを発揮しているということです。今はひとりのリーダーが厳しく強くっていうスタイルで勝負に勝てる時代ではないですから、時代が求めるリーダーシップ像がここにあると感じます。それは企業でも同様のことがいえます。原先生のマネジメントにはすごくインスパイアされる部分があって、例えばそれを5万人規模の会社に適応していけば日本って良くなるんじゃないかなぁと。自分がビジネスコンサルタントの立場でやれたらおもしろいですね。

 答えがあると思うからみんな答えを探しにいくんですけど、そもそも世の中、答えはないんですよ。何が正解かわからない時代になっているわけです。私の授業では「そもそも答えはないんだよ。あなたの言ったこと、思っていることが答えなんだよ」という表現の仕方でそれぞれの思いを引き出させるようにしています。これは陸上競技部においても同じです。

エリック 私の場合は、陸上競技部の学生もゼミにいるので原先生と学生両方の意見を聞ける。これは実はすごく勉強になることで「なるほどなぁ」と。一方通行だとみんな偉そうなことを言うけれど、学生の声を聞いた時、原監督の独自のリーダーシップがみんなをやる気にさせているのだなと考えさせられます。

 人それぞれの思いは無限大にあるんですよね。事実はひとつですが、真実は人それぞれの思いですから。ごまかしの真実、道徳観のない真実の場合は怒りますが、前向きな真実に対しては認め合う。それがGSCの考え方でもあります。本人のマインド、スイッチをどのタイミングでどう押してあげるかがキモになるんです。それには日頃から学生の真実、思いがどうなのかを見ていることです。そしてそれを認めてあげること、平等感も大切になります。それぞれの能力の位置、事実をちゃんと把握させて、そこからどう成長させていくかを考えます。苦労を経て成長があるから人は喜ぶ。学問にしても競技にしても、段階的に伸ばしていくって大切ではないですか。

エリック 私たちが教えているのは、知識ではないんですよね、知識の時代は終わったんです。教育が変わって、教員の役割も変わり、学生も変わってきている。重要なことは学び続けるというマインドセットです。学ばないと成長はないですから。私のポリシーは「教育」とは「共育」だということ。「共に学び、成長しようよ」と学生に言っています。

 きちんとした思考を持ち、リーダーシップを取らないと誰も言うことを聞かないですよ。論理的思考でマネジメントやリーダーシップ論、あるいは組織論、心理学、サイエンスなどを持ち合わせることが大切です。時代を牽引する「共生マインド」を備えたリーダーの育成はGSCのミッションでもあります。

エリック 我々の次のステップは、こういう関係をカタチにし発信していくことです。それぞれの専門分野を超えて、コラボレーションしたものを創り出したい。GSCの共感の輪は、他の大学では絶対に真似できないと思うので、その成果を出していきたい。それが次の目標ですね。