特集 1

シビック
エンゲージメント
センターが始動

「ボランティアセンター」から「シビックエンゲージメントセンター」へ

2022年4月、シビックエンゲージメントセンター(以下CEC)を開設しました。これは従来のボランティアセンターを改組・発展させたものであり、本学のスクール・モットーである「地の塩、世の光」を体現する人物、サーバント・リーダーの育成に向けて策定された中長期計画「AOYAMA VISION」に基づく取り組みです。今回の記事ではその意義や役割についてご紹介します。

シビックエンゲージメントセンターとは?

シビックエンゲージメントセンター センター長(社会情報学部 教授)

飯島 泰裕

青山学院大学 大学院理工学研究科 経営工学専攻 博士前期課程修了。修士(工学)(青山学院大学)。株式会社富士通研究所、金沢大学 経済学部 准教授などを経て、2008年より青山学院大学 社会情報学部 社会情報学科 教授に着任し、現在に至る。青山学院大学 情報メディアセンター副所長(相模原キャンパス)を経て、2020年より同大学ボランティアセンター長、2022年より同大学シビックエンゲージメントセンター長に就任し、現在に至る。他にも、金沢大学 先端科学・イノベーション推進機構・客員教授、相模原市都市計画審議会委員、相模原市中央区区民会議 会長を兼務。

「地の塩、世の光」というスクール・モットーにも示されるように、本学における建学の精神とボランティア精神は分かちがたく結びついています。本学ではこれまでも、多くの学生や教職員が積極的にボランティア活動に取り組んできました。2011年には東日本大震災を契機に学生が主体となって「ボランティア・ステーション」が誕生。ボランティア活動を促進するため、学生有志により発足されました。その後「ボランティアセンター」を経て、今春「シビックエンゲージメントセンター」として生まれ変わりました。その目的とは、以下のミッションのもと、センターの機能をさらに発展させることです。

◆学生・教職員の自発的な社会貢献活動への参画を促進すること
◆大学の持つ専門性や強みを活用してボランティア活動や市民協働活動の社会的効果を向上すること
◆社会貢献活動への参加にともなう教育的効果を向上させること


ここで注目していただきたいのは「シビックエンゲージメント」という言葉です。日本語に訳すと「市民協働」となりますが、ここで示される「市民」という概念は古代ギリシャ文化にさかのぼります。民主主義の黎明(れいめい)期である古代ギリシャ時代、「市民」とは社会参画の権利と義務を持つ、誇りと名誉ある存在でした。今回、私たちがCECを開設するにあたって大切にしたことは、まさにこの「社会参画に対する誇り」という部分です。私たちは、学生の皆さんが世界市民としての誇りと自負をもって積極的に社会に参画していくことを願っています。CECはその力強いサポートの場として立ち上げられました。社会参画のかたちはさまざまです。災害支援や福祉支援といった従来型のボランティアだけではなく、地域貢献活動や、ソーシャルビジネスへの参加など活動の幅は無限に広がっていきます。「狭義のボランティアから市民協働全般へ」――その思いを込めて、私たちは新しいセンターの名前を「シビックエンゲージメントセンター」としました。

CECが推進する市民協働プロジェクトの一つが「相武台団地商店街グリーンラウンジ・プロジェクト」です。若者ならではのアイデアと行動力を駆使し、地域で展開される事業に新たな価値を創出します

この考えに基づいて、CECでは大きく以下の2点にチャレンジします。

1点目は地域振興やソーシャルビジネスへの取り組みです。これはセンターの活動を狭義のボランティアから市民協働全般へ広げることを目的としたものです。キャンパスのある渋谷区や相模原市地域では既に地域団体や企業等と連携し、障がいのある方とアートをつなぐ取り組みや認知症の方々を支えるボランティア活動などを始めています。

2点目は、市民協働の学びを正課科目としてさらに充実させ、本学が使命とする「サーバント・リーダーシップ」の教育を強化していくことです。サーバント・リーダーとは、自分の使命を見いだして進んで人と社会とに仕え、その生き方が他の導きとなる人物のことであり、この人物像は市民協働の考えと軌を同じくするものです。具体的な施策としては、まずこの4月から正課科目として「ボランティア・市民協働論」を開講しました。この講座は市民協働に関する基本知識を学ぶものであり、今後の深い学びや、具体的な社会参画活動の基礎となるものです。また既存のサービス・ラーニング科目(詳細は「サービス・ラーニング~正課としての学び~」の項目にて紹介)も拡充します。なお「ボランティア・市民協働論」およびサービス・ラーニング科目は、学部や学年の垣根を超えて学べる「青山スタンダード科目」内に設けられています。

地域団体や企業等と連携し、障がいのある方とアートをつなぐ取り組みを実施。中でも金沢市では、優れた芸術的な才能を持つ、障害のある方への支援の一環として「アウトサイダー・アート・プロジェクト」を進めています

活動の具体例 ~多様な関わり方~

シビックエンゲージメントセンター 助手・コーディネーター

佐藤 亜希

法政大学 人間環境学部 人間環境学科卒業。青山学院大学 国際政治経済学研究科 国際政治学専攻 修士課程修了。修士(国際政治学)(青山学院大学)。日本赤十字社 国際部、特定非営利活動法人国際協力NGOセンターを経て、2017年より青山学院大学 ボランティアセンター 助手、2022年より本学シビックエンゲージメントセンター 助手に着任し、現在に至る。

市民協働の取り組みを推進する、CECの具体的な活動をご紹介します。

1)学生の相談窓口
ボランティア活動を希望する学生の相談を受け、ボランティアプログラムを紹介しています。そのためCECでは、多様なニーズに応えるため、初心者向けから経験者向けまで幅広いプログラムを用意しています。相談に応じる際には、本人の興味や関心、ボランティアの経験値などを丁寧にヒアリングしつつ、一人一人の学生に適した情報を届けるよう心掛けています。また各種ボランティア活動に役立つ、研修や講座も実施していますので、誰でも安心して活動に取り組むことができます。

2)学生をサポートする、さまざまな制度の運営
CECは、学生の市民協働活動を支える制度も整備しています。例えば「ボランティア・社会貢献プロジェクト・サポート制度(通称「ボラサポ」)では、ボランティアプロジェクトを自ら企画・立案する学生を資金面からもサポートします。学生から寄せられたプロジェクト企画は、取り組む社会課題に対する理解度や学生たちの熱意、ボランティア活動を通じた学びや成長、活動の対象となる地域社会への貢献度などの審査基準による事前審査を受け、採択されたプロジェクトは活動経費の補助を受けられます。2021年度は5件のプロジェクトが採択されました。社会課題に対して、自ら解決策をプロジェクト化し、周囲を巻き込んで目的を達成していくという点で「ボラサポ」はセンターが実施する事業の中でも最終段階に位置するプログラムと言えるでしょう。

登録制の学生団体ネットワーク「AOGAKUボランティアネットワーク」も学生の活動を後方支援しています。学内のボランティア団体は、このネットワークに加入することで他団体との連携が取りやすくなり、活動の幅を広げることができます。またネットワークに加入することでさまざまなサポートを受けられるようになります。例えば、CECが主催する学生ボランティア団体合同説明会に出展できたり、コロナ禍で増加したオンラインミーティングのツールとしてZoom Proアカウントを借用したりすることができます。活動サポートとして「動物愛護団体きすあに」は、オンライン講演会の学内広報や実施経費の支援を受けています。また街の清掃ボランティアに取り組む「グリーンバード青山学院大学ゴミ拾い愛好会」の青学チームは、CECと共催で新歓ボランティア活動「Green Up Project」を実施しています。

3)正課科目との連携
さらにCECは「ボランティア・市民協働論」やサービス・ラーニング科目といった正課科目との連携にも力を入れています。例えばボランティア実習を伴うサービス・ラーニング科目では、学生の受け入れ先となる市民団体とのマッチングを行ったり、ゲストスピーカーを招く際のコーディネーションも行ったりしています。また飯島先生が語る「市民協働」の考えに基づき、東京都渋谷区における「シブヤフォント」プロジェクトや、「相武台団地活性化プロジェクト」といった各自治体との市民協働プロジェクトも実施しています。

初心者向けから経験者向けまで、幅広いプログラムを用意。中でもCECでは12月1~9日を「障がいWEEK」とし、さまざまな企画を実施

街の清掃ボランティアに取り組む「グリーンバード青山学院大学ゴミ拾い愛好会」はCECと協働し、新歓ボランティア活動「Green Up Project」を実施

地域に寄り添い、活動する学生たち

サービス・ラーニングから始めた国際協力ボランティア

国際政治経済学部 国際政治学科

大塚 梨紗子

入学前から大塚さんは世界の飢餓や貧困を憂い、ボランティアによる国際協力を志していました。3年次に履修した「サービス・ラーニングⅠ」で日本に暮らす難民などの子どもたちに学習支援を行う実習を経験しました。

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学びとボランティアの相互作用で地域を元気に

コミュニティ人間科学部 コミュニティ人間科学科

小泉 彩乃

小泉さんは授業で学んだ地域活動の考え方や知識を生かし、相模原市にある認知症対応型デイサービス「おとなり」を拠点にボランティアとして活動し、周辺地域を元気にしようとチャレンジしています。

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学びや気付きをくれた地域ボランティア

教育人間科学部/経営学部/国際政治経済学部

齋藤 悠治/澤田 創/松本 瑛美

本学は、渋谷区社会福祉協議会が行う「こどもテーブル(地域の絆で生活を支え合い、子どもを守り育てる活動)」の取り組みにボランティアとして参加しています。その活動の一端を紹介します。

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サービス・ラーニング~正課としての学び~

シビックエンゲージメントセンター 副センター長(社会情報学部 教授)

大宮 謙

慶應義塾大学 経済学部 卒業。東京神学大学 大学院神学研究科 博士前期課程修了。修士(神学)(東京神学大学)。日興證券株式会社、日本基督教団 西那須野教会 牧師、同教団 逗子教会 牧師を経て、2008年より青山学院大学 社会情報学部 准教授、2019年より同 教授に就任。2008年より青山学院大学 大学宗教主任、2020年より同大学 ボランティアセンター 副センター長、2022年より同大学 シビックエンゲージメントセンター 副センター長に就任し、現在に至る。

サービス・ラーニングとは、社会貢献活動(サービス)を通じた学習法(ラーニング)のことです。サービス・ラーニングとボランティアとの違いについては、ボランティアは活動そのものが目的であるのに対し、サービス・ラーニングでは活動から得られた「学び」に重点が置かれるのが特徴です。体験を通じた学びを効果的なものとするため、一般的にサービス・ラーニングは ①事前学習 ②実習 ③振り返り学習 の3つのステップで構成されます。本学のサービス・ラーニング科目や「ボランティア・市民協働論」講座が目指すところはサーバント・リーダーシップの醸成です。サービス・ラーニングを学ぶ学生は、まず社会の課題に対して「自分ならどう関われるのだろうか」と当事者意識を持ちます。次にボランティア実習などを経て「自分にも社会問題を解決していくことができる」という実感を得ます。そして、その実体験をさらなる学びにつなげていくサービス・ラーニングの学びはサーバント・リーダーシップの醸成において非常に有益です。

現在、本学では両キャンパスを合わせて7つのサービス・ラーニング科目を設けています。これらはすべて青山スタンダード科目ですので、2年生以上の学部生は誰でも履修できます。CECでは、サービス・ラーニングでの実習受け入れ先となる地域団体やNPO、NGOとの連携・調整や授業内での取り組みをサポートしています。

CECが提供するさまざまなプログラムを通じて、一人でも多くの学生や教職員に「自らも社会問題の解決の一部を担うことができる」という実感を得ていただきたいと思います。そして、まずは両キャンパスのある地域の皆さんに、願わくば広く世界の皆さんに「困ったときに頼りになるのが青山学院」と思っていただけるような、社会と協働する学院づくりの一翼を担っていきたいと思います。

⼤学での学びを社会貢献へと発展

社会貢献を現場と教室で学ぶ「サービス・ラーニング科目」

社会情報学部 教授 大学宗教主任
シビックエンゲージメントセンター 副センター長

大宮 謙

文学部 英米文学科

古屋 美穂

「サービス・ラーニングⅠ・Ⅱ」は、ボランティアなどのサービス活動を実際に経験する体験型授業です。体験をさらに深い知見として定着させ、本学が育成目標として掲げるサーバント・リーダーシップの体得を促します。

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