特集 1

データサイエンス
への取り組み

「aDSec」を設置して、データサイエンス教育を全学で展開

2022年5月、青山スタンダード教育機構内に、「青山データサイエンス教育コンファレンス(Aoyama Data Science Education Conference/以下aDSec)」を設置しました。本学理工学研究科では、2019年度から「データサイエンティスト育成プログラム」をスタートし、実践的なデータサイエンティスト育成に努めてきましたが、aDSecをはじめとした取り組みによりその対象を全学的に広げ、さらに加速した展開を進めていきます。

「AI戦略 2019」を機にデータサイエンス教育を本格化

学長補佐 データサイエンス担当、経営学部 経営学科 教授

荒木 万寿夫

青山学院大学大学院経済学研究科 経済学専攻 博士後期課程標準年限満了退学。青山学院大学 修士(経済学)。経済企画庁 経済研究所 客員研究員、一橋大学 経済研究所 助手などを経て、1999年から青山学院大学 経営学部 専任講師に着任し、一橋大学 経済研究所 客員准教授(2008年~2010年)などを兼任。2010年から青山学院大学 経営学部 経営学科 教授に就任し、現在に至る。専門分野は、経済統計学、情報教育。

2010年代以降、データ駆動型社会、第4次産業革命の時代、Society5.0と呼ばれる新しい社会像が提唱されるようになる一方で、その実現を担うAI人材の不足を危ぶむ声が日増しに大きくなっていきました。2016年の第5期科学技術基本計画や文部科学省の人材育成総合イニシアチブなどは、AI人材の育成を急務とする取り組みという一連の流れの中で捉えることができます。

大学におけるデータサイエンス教育という観点では、統合イノベーション戦略推進会議の「AI戦略 2019(2019年6月11日閣議決定)」において、文理を問わずAIリテラシー教育を毎年50万人に展開するとうたわれたことが一つの画期になったと言えます。2021年に文部科学省が中心となった「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」が開始されると、全国の大学は一斉にデータサイエンス教育の重点化にかじを切りました。

国主導のデータサイエンス教育の拡充は、本学でも重視してきた「根拠を示して合理的な意思決定ができる学生の輩出」という方向性と合致しています。しかしながら、「文理を問わず全学生」が教育対象となると、教育体制も抜本的に見直す必要があり、教員に対しても文理を問わず連携することが求められます。そこで本学では、教員による懇談会組織設置に向けた準備を2021年度に開始し、2022年5月設置の青山スタンダード教育機構内に青山データサイエンス教育コンファレンス(aDSec)を含む、以下の3つの取り組みをスタートしました。

先陣を切った「データサイエンティスト育成プログラム」

理工学研究科 データサイエンティスト育成プログラム 取りまとめ、理工学部附置 先端情報技術研究センター長、理工学部 情報テクノロジー学科 教授

大原 剛三

大阪大学 大学院基礎工学研究科 物理系専攻 博士後期課程中途退学。大阪大学 博士(工学)。大阪大学 産業科学研究所 助手・助教を経て、2009年青山学院大学 理工学部 情報テクノロジー学科 准教授に就任し、2017年から教授。専門分野は、発見科学、知能情報学、知識工学。

理工学研究科では、2019年度より「データサイエンティスト育成プログラム」を開始しました。AOYAMA VISIONの支援を受けた本プログラムは、「データを読み解く洞察力」「先端的技術を実践できる応用力」「結果の妥当性を評価できる評価能力」という3つの能力を併せ持つ実践的なデータサイエンティストの育成を目的としています。その目的のもとで、知識を学ぶ講義科目、技術を学ぶ演習科目、実践力を養う課題解決型科目を導入しました。

プログラムの実施に関しては、外部の企業・研究機関の協力のもと、実世界における課題を対象とした学びを実践しています。「先端データ分析特論」という科目では、企業・研究機関においてデータサイエンスを実践している実務者の方を招き、各機関での取り組み、課題などについて講演をしてもらっています。他にも、「課題解決型演習」では、企業・研究機関に一部の学生をインターンシップ生として受け入れていただくほか、連携機関から提供されたデータの解析を行い結果のレビューをデータ提供元から受ける学内PBL(Problem Based Learning)を実施しています。

「データサイエンティスト育成プログラム」において目指す3つの能力

2019年度からの3年間で本プログラムを修了した学生は95人(1年目24人、2年目38人、3年目33人)になります。修了生の中には、本プログラム履修中に学外インターンシップを受けた企業に就職した者もいます。今年度も35人の学生が履修しています。また、12の企業・研究機関から講師を招いた講義を行った他、4つの連携機関に16人の学生インターンシップを受け入れていただいています。学内PBLでは3つの連携機関からデータ提供を受けました。

今後に向けた課題としては、大きく分けて2つあります。1つは、情報系学科を卒業した学生とそれ以外の学科の卒業生とで情報技術に関する事前知識、プログラミング技術に差があることです。そのため授業や演習の進行のバランスを取るのが難しくなっていますから、不足する事前知識・プログラミング技術を補うカリキュラム構成を検討していくことが必要になります。

もう1つの課題は、担当する教員の負担です。担当教員の拡充も含め、今後は大学全体のデータサイエンス教育を拡充・最適化する取り組みの中で解決策を模索していければと考えています。また、地元企業から提供されたデータを解析して課題解決の一助となりつつ、大学における人材育成も促進するという、Win-Winの関係を構築していければとも考えています。

「データサイエンティスト育成プログラム」修了学生数
2019年度 24人
2020年度 38人
2021年度 33人
2019年度からの3年間で、95人の学生が本プログラムを修了。2022年度は35人の学生が履修中

今後は多様性とサーバントリーダーシップを軸に展開

経営学部 経営学科 准教授

保科 架風

中央大学 大学院理工学研究科 数学専攻 博士課程後期課程修了。中央大学 博士(理学)。滋賀大学 データサイエンス教育研究センター 助教を経て、2019年より青山学院大学 経営学部 経営学科 准教授に就任し、現在に至る。同時に滋賀大学 データサイエンス教育研究センター 特任准教授を経て、2022年より同大学 データサイエンス・AIイノベーション研究推進センター 特任准教授。専門分野は統計的モデリング(スパースモデリング、ベイズモデリング)と産学でのデータサイエンス教育。

2017年から2年間勤務した滋賀大学データサイエンス教育研究センターでは、企業との共同研究や社員への指導、企業とともにデータ研磨の講義を開発するなどしてきました。その経験から、データサイエンスの本質は統計学でも機械学習でもプログラミングでもなく、「問題解決」であることを学びました。そしてデータサイエンスとは「データ分析を駆使して問題を解決する」ことだと理解しました。

ここで改めてデータサイエンス教育に必要な要件を整理すると、問題解決能力、数理能力、統計学・機械学習の知識、プログラミング能力、サーバー等に関する知識、そしてデータ分析での問題解決に関する知識が挙げられるかと思います。しかし、これらを大学ですべて教えることは決してコストパフォーマンスが良いとは言えません。一方、データサイエンスで解決すべき問題自体は、大学の中でも、特に文系学部で遭遇する可能性が高いという特徴があります。

データサイエンス教育には6つの要件がある一方、データサイエンスで解決すべき問題自体は、大学の中でも特に文系学部で遭遇する可能性が高い

これらのことから、社会科学領域の問題解決をデータサイエンスの題材とする教育プログラムを展開したいと考えております。具体的には、まずは一般教養としてのデータサイエンス教育を実施した上で、それを各学生の専門分野での研究に生かせるように「滑らかに」接続するために、各学部の既存のデータサイエンス関連科目を生かしつつ、学部単体では提供できないような内容のトピックの講義を全学でシェアする。これにより、学生が卒業する頃には、データサイエンスを活用しながら各自の専門領域の問題を解決できる人材に育っていることが期待できます。

加えて、青山学院大学は、自分の使命を見出して進んで人と社会とに仕え、その生き方が導きとなる「サーバント・リーダー」を育成しているという強みがあります。このサーバント・リーダーが周囲を巻き込むときに重要となる合意形成は、組織の合意形成を助けるデータサイエンスと親和性が成立します。すなわち、青山学院大学が育成するサーバントリーダーシップのメンタリティを軸にした上でデータサイエンス教育を展開することにより、知識だけの教育ではなく、実際の問題の解決に真に役立てることが可能な知性を学生に提供できると考えています。

データサイエンスを活用しながら各自の専門領域の問題を解決できる人材を育成

さらに特色のあるデータサイエンス教育を

副学長(学務及び学生・産官学連携担当)、社会情報学部 社会情報学科 教授

稲積 宏誠

早稲田大学 大学院理工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程退学。工学博士(早稲田大学)。1993年本学理工学部に就任。情報科学研究センター副所長、理工学部教務主任、2004年より理工学部長・大学院理工学研究科長、2010年より社会情報学部長・大学院社会情報学研究科長、2016年より学生相談センター所長をそれぞれ歴任。専門分野は、情報理論、人工知能、機械学習、日本語教育。

データサイエンスは、理系に特化した学問分野ではなく、まさに「学際」的なテーマとなっています。それは、人や社会をとりまく諸問題を扱う従来の人文社会分野の取り組みに、「データに基づく・裏打ちされた」アプローチを加えることで、より大きな成果を生み出すことが期待されるからです。

今後、データサイエンスを大学としての取り組みとするためには、人文社会系の学部であっても広くその学びを可能とするプラットフォームを作っていくことが急務です。そこでまず、早急にそのプラットフォームを構築することに加えて、それを踏まえた専門分野ごとの「データに基づく・裏打ちされた」取り組み、すなわち特色のあるデータサイエンス教育を展開していく必要があると考えています。

本学では既に、全学生向けの情報リテラシー教育を20年にわたって実施してきました。その実績を、全学生向けの新たなリテラシー教育として、データサイエンス教育プログラムへと展開することにしています。具体的にはaDSecをスタートさせ、青山スタンダード科目としての入門教育プログラムを全学部の学生向けに提供。そこからaDSecが支援・調整するかたちで各学部専門教育へと展開していきます。データサイエンス学部やデータサイエンス学科と銘打ってはいませんが、データサイエンスと各専門分野の橋渡しや各専門分野での多様な取り組みに、本学の持ち味を出していきます。

もはやデータサイエンスは理系に特化した学問分野ではなく、学際的なテーマに

研究室インタビュー

ソフトウェアが人間の知識を利用してより賢くなる未来へ

理工学部 情報テクノロジー学科 准教授

森田 武史

理工学研究科 理工学専攻 知能情報コース 博士前期課程 1年

澤村 勇輝

理工学部情報テクノロジー学科の中でも「知識工学研究室」では、人間の持つ知識を人工知能が利用できるようにする技術や、その知識を利用できるシステムの研究を行っています。その研究内容や成果を聞きました。

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あらゆる分野で必要となるデータに基づいて考えるスキルを磨く

社会情報学部 社会情報学科 教授

寺尾 敦

社会情報学部 社会情報学科 3年

並木 翔平

人の思考や行動について、データサイエンスを用いて幅広く研究を行う寺尾ゼミ。ゼミでの学びを通じてデータを読み解き、データに基づく主張ができることを目指しています。

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教員インタビュー

先端的なコンピューター技術を駆使したデータサイエンスで読み解く
謎に満ちた古典語の世界

文学部 日本文学科

近藤 泰弘 教授

「文理融合」の考え方がいまのように広まる以前から、近藤教授は最先端のコンピューター技術を用い、最古の古典語について研究を続けてきました。これからの人文学研究に求められる人材などについて、近藤教授に聞きました。

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現代社会に急速に広がる統計学と今日のデータサイエンスに求められる
統計リテラシー

経済学部 経済学科

川崎 玉恵 准教授

統計学に基づくデータサイエンスは現代社会において強力な武器となり得ますが、一方で統計リテラシーを有していなければ正しく活用していくことは難しい、と川崎准教授は語ります。

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