特集 1

博士後期課程支援
AGU
Future Eagle Project

「文理融合」と「国際性」をテーマに、優れた博士後期課程学生の育成を目指す

社会の仕組みが複雑化している昨今、高度な専門研究を担う大学院や博士課程の存在が改めて注目されています。本学でも、博士後期課程(及び一貫制博士課程3年次生以上)の学生を支援する新制度「AGU Future Eagle Project(略称FEP)」が2021年11月からスタートしています。今回の記事ではFEP開始の背景や注目ポイントなどをご紹介します。

「AGU Future Eagle Project」とは?

AGU Future Eagle Project 事業統括、学長補佐 産官学連携担当、理工学部 電気電子工学科 教授

黄 晋二

2000年、東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 博士課程修了。東京大学 博士(工学)。東京大学助手、東北大学助手、奈良先端科学技術大学院大学准教授を経て、2013年、青山学院大学理工学部 電気電子工学科准教授に着任し、2018年から教授。ナノカーボンデバイス工学研究所長、総合プロジェクト研究所長、リエゾンセンター副センター長。専門は機能性材料の結晶成長、物性評価、デバイス応用。青山学院大学で本格的にグラフェン(炭素原子で構成されたシート状の材料)の結晶成長とデバイス応用に関する研究を開始し、現在、イリジウム上単結晶グラフェンの熱CVD成長、グラフェン透明アンテナ、グラフェンの電気化学デバイス等の研究開発に取り組んでいる。応用物理学会、電気化学会、ニューダイヤモンドフォーラム等の学会に所属。

青山学院大学の研究最前線
(AGU NEWS 101号特集)


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青山学院大学の研究最前線
(AGU NEWS 101号特集)


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FEPとは、本学で初となる全学的な博士課程学生支援プログラムです。奨励学生には学術や実業などにおける新たな領域や分野を切り開く可能性が期待されるもので、博士課程の3年間にわたって研究費、生活費の支給や育成プログラムの提供といった包括的な支援が行われます。「Future Eagle」というプロジェクト名は、本学のマスコットキャラクター「イーゴ」にちなんだものです。

■FEP開始の背景

FEP開始の背景には「日本の研究力低下」という問題があります。科学技術・学術政策研究所が作成した「科学技術指標」の報告にもありますが、日本は他国に比べて博士号取得者数が減少しています。この問題への対策として、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)は「次世代研究者挑戦的研究プログラム(JST-SPRING)」を発表しました。これは公金をもって各大学の博士課程学生支援策を後押しする取り組みです。一方本学では、JSTのプログラム発表よりも前から博士課程学生への支援を積み重ねてきました。JSTによるプロジェクト審査では本学の支援実績が高く評価されたことから、FEPは2021年度の対象プロジェクトに採択され、これをもってFEP実施の運びとなりました。JSTの規定に伴い、FEPは2021年度から2025年度までの5カ年プロジェクトとして実施します。

■FEPの4つの柱

FEPの主な特長は
①学際性
②トランスファラブルスキル(汎用的能力)
③キャリアパス支援
④経済支援
の4点です。

①学際性
イノベーティブな研究を行うためには、自らの専門分野を深く掘り下げるとともに、異分野とも融合を図ることで幅広い視野を獲得することが重要です。FEPでは特に「学際性」を意識して、奨励学生の専門分野とは異なる分野の教員による副指導体制をとっています。例として「社会学を研究する学生とデータサイエンスの教員」の組み合わせでは、文系である社会学の学生が、理系であるデータサイエンスの手法や発想を学ぶことで、より客観的で説得力のある研究にブラッシュアップできます。「自動運転システムの研究を行う学生と心理学の教員」の組み合わせでは、ドライバーの心理を学ぶことで運転システムの研究をさらに精緻なものにできます。

②トランスファラブルスキル(汎用的能力)
「トランスファラブルスキル」とは、分野を問わずに発揮できるような汎用性を備えた能力のことです。例えば、博士課程の学生たちは配分された予算の計画的な有効活用など、日々実務をこなす中で、実務その他の総合力においても高度なスキルを身に付けていきます。正しいデータに基づいてものごとを本質的に考察する方法論を得ているのも博士課程学生の特長であり、まさにこの考察スキルこそ、あらゆる分野で活用できる「トランスファラブル」なものです。さらにFEPでは短期海外留学支援やワークショップなどを行い、どの分野でも必要となる国際性や英語力の涵養にも力を入れています。

③キャリアパス支援
海外では博士課程学生たちの持つトランスファラブルスキルが高く評価され、さまざまな分野の企業で学位取得者が積極的に採用されています。今後は日本でも博士課程学生のポテンシャルへの評価が進み、学生と企業の双方にとって有意義なキャリアパスが形成されることを願ってやみません。FEPでは文部科学省による「ジョブ型研究インターンシップ制度」や本学校友会ネットワークなどの活用を通じて、博士課程を修了した学生たちのキャリアパスの形成を目指しています。高い専門性とトランスファラブルスキルの両輪を備えた学生たちには、アカデミックな進路以外にも、一般企業への就職、また政治やジャーナリズムの世界などにも積極的に活躍の場を広げてもらいたいと考えています。

博士課程では、多様な分野・業種・職種で活用できる、トランスファラブルスキルが磨かれます。

④経済支援
既存の支援制度である若手研究者奨学金(授業料の実質無料化)に加え、FEPは研究費や生活費の支援も積極的に行っています。学生たちが経済的な問題に制限されることなく、腰を据えて研究活動に専念できるような環境を整備することがその目的です。なお本学のさまざまな博士課程支援策は各所で評価されており、近年では優れた研究環境を求めて他大学から本学の博士課程に進学する学生も増えています。博士課程学生の支援は「研究力の青学」という本学のブランド醸成にも一役買っています。



大学には大きく分けて2つの機能があります。ひとつが学部に代表される幅広い「教育」、もうひとつが大学院に代表される高度な「専門研究」であり、今後はこの「専門性」に対する社会的なニーズがさらに高まっていくことが予想されます。そのため高度な専門性を身に付けておくこと、その証明である「博士」の学位を取得することは、これからの国際社会で大きな支えになります。本学ではFEP以降も同様の研究力強化の取り組みを継続するべきであると考えています。

学生や、専門分野での学び直しを考えている社会人の方には、ぜひ「青学で専門性を磨く」「青学で研究する」ことをキャリアの選択肢に加えていただきたいと思います。

「専門性」に対する社会的なニーズがさらに高まっていくことが予想されます。専門性を深く掘り下げるとともに、幅広い視野を涵養することが大切です

本学が実施している大学院生への主な支援制度

詳細はリンクページ等でご確認ください。

支援策 AGU Future Eagle 既存の博士後期課程学生への主な支援制度
奨学金 博士後期課程の標準修業年限、一貫制博士課程の3年次〜5年次(3年間)の授業料を実質無償化
採用者数(3年間、満30歳未満):
平成31年度 13人
令和2年度 24人
※FEP学生にも適用
生活費 研究奨励費等
月額18万円
博士後期課程や一貫制博士課程3年次以上の大学院生を院生助手として雇用し、研究を優先しつつ、学部生の講義や実習、 国際会議の運営など、高度な補佐業務を行う制度
研究に従事しながら、学部生の講義や実習の補佐業務を行う制度
給与月額 16万円(雇用は通算3年まで)
採用者数:令和2年度 18人
※FEP学生は併用不可(転換を望む場合は要相談)
研究費 研究奨励費
研究費25万円/年
博士後期課程学生、助手、助教ら 若手研究者向け学内競争的研究費
博士後期課程学生支援金額 25万円、12件/年
採用者数:
平成29年度 6人
平成30年度以降 毎年12人
※FEP学生は併用可
国際学会参加推進
年1回の参加補助
博士前期・後期課程学生を対象とした国際学会発表渡航費支援制度
国内開催 7万円まで、国外開催 15万円まで
採用者数:
平成31年度 24人
令和2年度 18人(全てオンライン学会)
※FEP学生は併用可(国際学会参加 2回目)
指導/育成
副指導体制
分野横断、文理融合を実現する体制を構築
ワークショップ、セミナー
学外有識者2名が協力
本学出身者の協力を予定
海外留学支援制度
希望者のみ
最長3か月程度を想定

奨励学生インタビュー

学際的な視点からEUと世界平和の研究を進める
国際政治経済学研究科 国際政治学専攻 博士後期課程2年 大槻 歩未
【研究課題名】EU市民のアイデンティティと他者への寛容度

私は以前から差別問題や世界平和というテーマに大きな関心を持ち続けてきました。その背景には、ホロコーストに関する絵本に触れたり、広島の原爆ドームを訪れたりという幼少期の経験があります。博士課程に進んだ現在は「EU市民のアイデンティティと他者への寛容度」というテーマで研究を進めています。

人や社会のつながりに関心を持ち続けてきた私は、研究の上でも常に社会参画の視点を大切にしてきました。その点、理系の分野は一般企業との共同研究なども積極的に進めており、社会参画の成果も具体的であるという印象を持っていました。そこで私は、学生支援のポイントとして「学際性」を掲げているFEPに参加することで、理系の分野からも研究のヒントを得ることを目指しました。

研究内容をブラッシュアップするためにも学際的な視点は有効です。例えば私が専門とする国際政治学は一般的に文系の学問とされますが、理系とされる社会情報学やデータ分析の手法も取り入れることで、研究内容にさらなる説得力が得られたと思います。データ分析のスキルを磨くためには、FEPの短期海外留学制度を利用しました。留学先はアメリカのICPSR(Inter-university Consortium for Political and Social Research)という政治・社会調査のための大学協会で、データ解析の高等技術を学んだ他、REP(Race, Ethnicity & Politics)という研究分野に触れ、自らの研究テーマである差別の問題についても新たな視点を得ることができました。

またFEPの経済支援によって日々の研究環境を望ましいものに整えることができました。専門書や機器類の購入費用を得るためのアルバイトなどに研究時間が圧迫される心配もなくなり、落ち着いて研究に打ち込んでいます。

「平和」という大きなテーマについて、現在はEUを軸とした研究を進めています。将来的にはこれらの研究をさらに深め、アジア諸地域などにも応用できるような普遍性を持つ成果につなげていきたいと考えています。

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留学先のミシガン大学セントラルキャンパスにて VIEW DETAIL →
統計学を活用し、ジェンダーの観点から国際平和を考える
国際政治経済学研究科 国際政治学専攻 博士後期課程2年 CHEN ZHAOYU
【研究課題名】女性は平和をもたらすか?―女性の政治参加と国家間紛争に関する実証分析―

私は現在「女性の政治参加が、国際平和にどのような影響をもたらすか」ということをテーマに研究を進めています。私はこのテーマについて修士のときから統計学の手法を用いて検証を続けており、修士論文では「女性議員の比率が高まるほど国家間紛争が起きる可能性は下がる」という結論に至りました。

博士課程に進んだのちは、統計学のスキルをさらに磨くため、FEPの短期海外留学制度を活用して世界最大のデータアーカイブ組織であるICPSRに短期留学しました。ICPSRでは「時系列分析」や「因果推論方法」などの分析手法を学び、博士論文の執筆に活用しています。またFEPが掲げる「学際性」からも多くのものを得ました。特に、エネルギー経済を専門とされる社会情報学部の先生が副指導を行ってくださったことで「国家における石油の産出量とジェンダーの関係」などの新たな視点も得られました。

経済面においてもFEPは大きな支えとなりました。留学生の私にとって新型コロナの影響は非常に大きく、アルバイトも減ったことなどから大きな打撃をうけていましたが、奨励学生の国籍を問わないFEPの支援を得て再び安心して研究に打ち込むことができるようになりました。

日本において、社会学の観点に基づいたジェンダー研究は一般的ですが、国際関係分野の観点に基づくジェンダー研究は今後の発展が期待されます。私はこれからも国際関係とジェンダーをテーマに研究を進め、将来的には日本で研究や教育関連の仕事に就くことを目指しています。

修士論文より。女性議員の比率が高まるにつれ、国家間紛争(Interstate Dispute)に参戦する可能性、国家間紛争を起こす可能性(Dispute Initiation)と国家間紛争の厳重さ(Severity/死者数や紛争のレベルを示す)が減る傾向にあります。データサンプルは、世界192カ国から集めたもの(1995〜2009年)。

オリジナルの分子を使って新たな核酸の検出手法を開発

理工学研究科 理工学専攻 博士後期課程2年
【研究課題名】多重イメージングを指向した高精度SERSプローブの開発

蒔苗 宏紀

理工学研究科では、充実した研究環境や支援制度を整えており、それらを利用して、在学中から学生が優れた研究成果を発表しています。蒔苗さんは、ラマン散乱光測定による細胞内核酸検出の研究に取り組んでいます。

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留学で見つけた天文学者になるという夢の続き

理工学研究科 理工学専攻 博士後期課程1年
【研究課題名】軟X線領域におけるガンマ線バーストの即時放射に関する研究

盛 顯捷(セイ ケンショウ)

台湾出身の盛さんは天文学者を目指し、理工学研究科博士後期課程で天体現象に関する研究に励んでいます。自国を離れて本学に入学し、見聞を広め、専門知識を深めた盛さん。現在思い描いている将来について語ります。

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2022年度 FEP 奨励学生

氏名 所属 研究課題名 主指導教員 副指導教員
野間口 哲 文学研究科 英米文学専攻
博士後期課程3年
多義性を生み出す抽象的な意味と環境の相互作用モデルの理論的研究 文学部 英米文学科
髙橋 将一 教授
理工学部 情報テクノロジー学科
谷津 元樹 助教
LI TIANCHONG 国際政治経済学研究科
国際政治学専攻
博士後期課程3年
Diseased Democracies:
Pandemic Responses and Democratic Backsliding
国際政治経済学部
国際政治学科
BOYD, James P. 准教授
理工学部 電気電子工学科
黄 晋二 教授
DUAN MAOMAO 理工学研究科 理工学専攻
博士後期課程3年
雷雲による発光現象スプライトとガンマ線放射 TGFによる雷発生起源の解明 理工学部 物理科学科
坂本 貴紀 教授
経済学部 共通教育・外国語科目
岸田 一隆 教授
山崎 禎晃 理工学研究科 理工学専攻
博士後期課程3年
テキストデータから構築した語彙知識を利用する分散表現修正手法の提案 理工学部
情報テクノロジー学科
大原 剛三 教授
社会情報学部 社会情報学科
宮治 裕 教授
大山 星馬 社会情報学研究科
社会情報学専攻
博士後期課程3年
異投射の体験性とメカニズムに関する事例研究 社会情報学部
社会情報学科
高木 光太郎 教授
コミュニティ人間科学部
コミュニティ人間科学科
河島 茂生 准教授
市川 周佑 文学研究科 史学専攻
博士後期課程2年
佐藤栄作内閣の内閣官房長官に関する研究 文学部 史学科
小宮 京 教授
経済学部 経済学科
高嶋 修一 教授
TUNG WENCHUNG 文学研究科 史学専攻
博士後期課程2年
上海自然科学研究所医学部に関する総合的研究ー植民地医学視野下の研究機構とその人々 文学部 史学科
飯島 渉 教授
東京医科大学 医学部
井上 弘樹 講師
大槻 歩未 国際政治経済学研究科
国際政治学専攻
博士後期課程2年
EU市民のアイデンティティと他者への寛容度 国際政治経済学部
国際政治学科
武田 健 准教授
社会情報学部 社会情報学科
大林 真也 准教授
CHEN ZHAOYU 国際政治経済学研究科
国際政治学専攻
博士後期課程2年
女性は平和をもたらすか?ー女性の政治参加と国家間紛争に関する実証分析ー 国際政治経済学部
国際政治学科
佐桑 健太郎 准教授
社会情報学部 社会情報学科
石田 博之 教授
蒔苗 宏紀 理工学研究科 理工学専攻
博士後期課程2年
多重イメージングを指向した高精度SERSプローブの開発 理工学部
化学・生命科学科
田邉 一仁 教授
経営学部 マーケティング学科
横山 暁 准教授
中川 大雅 国際政治経済学研究科
国際政治学専攻
博士後期課程1年
中国の日本に対する「武力攻撃を伴わない影響力行使の試み」と日本政府・社会への影響 国際政治経済学部
国際政治学科
林 載桓 教授
理工学部 情報テクノロジー学科
大原 剛三 教授
盛 顯捷 理工学研究科 理工学専攻
博士後期課程1年
軟X線領域におけるガンマ線バーストの即時放射に関する研究 理工学部 物理科学科
坂本 貴紀 教授
会計プロフェッション研究科
会計プロフェッション専攻
重田 麻紀子 教授
氏部 浩太 理工学研究科 理工学専攻
博士後期課程1年
ゼブラフィッシュを用いた老化の理解 理工学部
化学・生命科学科
平田 普三 教授
総合文化政策学部 総合文化政策学科
福岡 伸一 教授
黒松 将 理工学研究科 理工学専攻
博士後期課程1年
単層カーボンナノチューブインクを用いたフレキシブルデバイス応用 理工学部
電気電子工学科
黄 晋二 教授
社会情報学部 社会情報学科
飯島 泰裕 教授
北澤 勇気 理工学研究科 理工学専攻
博士後期課程1年
機械制御的アプローチによる自動車運転ドライバーモデルの確立 理工学部
機械創造工学科
菅原 佳城 教授
教育人間科学部 心理学科
薬師神 玲子 教授