図書館棟完成記念企画 第2弾
「マクレイ記念館」
建築を振り返る
設計上のこだわりから見る「マクレイ記念館」
2024年4月に開館した図書館棟「マクレイ記念館」。従来の図書館機能に加え、情報メディアセンターやアカデミックライティングセンターの機能も集約した、新たな「知の拠点」ともいえる施設です。今回は、マクレイ記念館における設計上の工夫や館内の見どころなどについて、建設プロジェクトを中心となって支えた担当者に語っていただきました。
根岸 健一
清水建設株式会社に入社後、設計本部 教育・文化施設設計部にて設計長、グループ長を務める。マクレイ記念館プロジェクトでは、設計責任者および工事監理者を務める。
原 栄作
大学卒業後、総合建設企業(ゼネコン)にて施工管理業務に携わった後、青山学院に入職。現在は法人本部管理部施設課にて、施設課長としてキャンパス内の建物の維持管理および改修・新築工事の管理を担当。マクレイ記念館プロジェクトでは、工事契約から、予算および工程管理、学内調整などを行う。
「学生の居場所」をキーワードに、新たな図書館像を追求
■ 歴史の重みを受け継ぎつつ、最新の図書館づくりを目指す
原 マクレイ記念館の設計・施工に当たった清水建設株式会社(以下清水建設)は、今から約100年前、青山学院の初代図書館であった間島記念図書館(現在の間島記念館)の建築に携わった歴史があります。
根岸 初代図書館である現・間島記念館の建築に携わらせていただいた当社が、長い年月を経て今度は新図書館の建設に携わるということで、身の引き締まる思いで担当させていただきました。設計当初から思い描いていた「初代図書館と新図書館を一枚の写真に収める」ということがついに実現し、大きな感慨を覚えております。
原 時代の変化によって大学図書館に求められる役割が問い直される中、清水建設と本学は「進化する図書館」というビジョンを共有し、本学150周年記念事業の一環となるマクレイ記念館の建設へと至りました。
――マクレイ記念館プロジェクトへの思い、そこから生まれた建築コンセプトなどについてお聞かせください。
根岸 何よりも学生の皆さんが使いやすい、新たな図書館にしたいと考えました。そのために多くの議論を重ねた結果、「学生の知的な居場所となること」また「学生と共に進化する図書館」というコンセプトが定まりました。資料の利用や学習の場所としての機能を果たすだけではなく、キャンパスライフの拠点となるような居場所づくりがゴールとなったわけです。
原 マクレイ記念館を学生にとって有意義な「居場所」とするためには、学生自身が自分の目的に合わせて最適な場所を選べるように考えました。その結果、利用者の活動内容から空間づくりを考える「アクティビティ・ベースド・ライブラリー」というキーワードにつながりました。
■ 「思い」を具現化する建築技術
――「学生の知的な居場所となること」「学生と共に進化する図書館」というコンセプトや「アクティビティ・ベースド・ライブラリー」という発想は、建物にはどのように表現されたのでしょうか。
根岸 まずは建物の外観を通じて「学生の居場所」を表現しました。ひさし状に張り出したスラブ※1とサッシュ※2によるシンプルな構造を基本に、全面的にガラス窓を配したことで、館内やテラスで活動する学生の姿を鮮やかに際立たせるのが狙いです。学生のアクティビティそのものが、キャンパスの新たな景観を形作っていくというメッセージを建築デザインから表現しました。
※1 鉄筋コンクリートで作られた構造床
※2 金属製の窓枠。サッシともいう
原 学生一人一人が「自分の居場所」を選べるように、館内ではバラエティに富んだ空間づくりを行いました。まず学生には気軽に足を運んでもらうべく、授業で学生が利用するIT講習会室・PC教室を情報学習フロアである地下1階・1階に配置。そして、サポートラウンジを1階の入り口近くという最もアクセスしやすい場所に配置しました。地下1階と1階をつなぐ階段状のホールは、カジュアルな発表の場やさまざまなイベントに活用できます。階段部分はベンチとして利用できるほか、周囲に設けられたカウンターは立ち見席としても使うことができます。
図書館フロアでは、静かな研究・学習空間である研究個室やキャレルデスク(個席)を設ける一方、アクティブな学習空間としてラーニングコモンズやグループ学習室を設けました。また各フロアには学習スペース「Aisle(アイル:教会の側廊)」を設けていますが、こちらも目的別に3種類に分けています。静音性の高い「Deep」のAisleは集中して学習したい時に、移動可能なデスクやホワイトボードを備えた「Active」のAisleはグループ学習に、飲食可能でカフェのような雰囲気の「Change」のAisleは気分転換をしたい時に、と使い分けることができます。情報学習フロアのラウンジも、ソファでゆったりとくつろげるラウンジと、アクティブな雰囲気でグループ学習にも適したラウンジの2種類を設け、目的やシチュエーションによってさまざまな環境を選べるようにしています。
――各エリアには、学生の学習効率をアップさせるための工夫もなされていると伺いました。
根岸 学生の学びをより積極的にサポートするため、聴覚や嗅覚といった五感からのアプローチも行っています。例えば「静と動」のゾーニングを図るため、吹き抜け周辺には「サウンドマスキング」という音響設備を設けました。これは空調音に似た環境音を流すことで、漏れ聞こえてくる会話の声などを目立たなくするものです。また「静と動」の感覚には肌で感じる「気流」も大きく関係するため、複数の空調を使い分けています。「Deep」のAisleのような静的なスペースでは無風の放射パネルを採用し、動的なスペースではやや気流感のある床付けの空調を用いています。適度な気流感は空間に活気をもたらすとともに、飲食可能な「Change」のAisleなどでは匂いがこもるのを防ぐ役割も果たします。さらに嗅覚からもリフレッシュできるよう、2階テラスや3階テラス、5階中庭の花壇には香りの良いハーブ類を植えました。年間を通じてさまざまな花が楽しめますが、特に新学期の緊張が途切れがちになる5月に向けては、ひときわ色鮮やかな花を咲かせたり爽やかな香りを放ったりする植物を選びました。
原 視覚からのアプローチとしては、フロアごとに内装のイメージを大きく変えています。図書館の導入部となる低層階では白木やオープンスペースを多用し、明るく親しみやすい空間を演出しています。一方、専門的な書籍や研究個室をそろえた上層階では、色調の濃い木目やダークトーンのインテリアを用いた知的で落ち着いた空間としています。さらにIT講習会などを行う情報学習フロアでは、黒を基調にクリエイティブな要素を強調しました。フロアごとに内装の雰囲気が違うので、学生は学習内容に合わせて好みのフロアを選ぶことができます。なお、こうした階層ごとの変化は「知のスパイラル」というマクレイ記念館のコンセプトを反映したものです。
――2階から6階までを占める図書館フロアでは、ダイナミックな吹き抜けが印象的です。
根岸 設計者として一番の見どころと捉えているのが、吹き抜けをずらしながら積層させた中央部の閲覧スペースです。フロアごとに少しずつ吹き抜けや階段の位置をずらすことで、リズムと解放感のある空間を実現しました。なお、この吹き抜けは、環境への配慮という観点からも大きな役割を果たしています。春秋には、吹き抜け部分の上昇気流を活用した「自然換気システム」を用いることで、空調熱源をほぼ使わずに館内を約26度以下に保つことができるのです。その他にも井戸水の空調利用や屋上緑化といったさまざまな工夫を行うことで、マクレイ記念館は「ZEB Ready※3」を実現し、大学図書館単体としては日本初となる公的認証である「BELS認証※4」を取得しました。
※3 基準一次エネルギー消費量から50%以上の一次エネルギー消費量削減に適合した建築物。「ZEB」とは「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」を指す。
※4 「Building-Housing Energy-efficiency Labeling System」の略称
原 図書館フロアでは吹き抜けによって解放感を演出するとともに、天井にはりの突起がない「フラットスラブ構造」やスリムな柱を用いることで、すっきりと見通しの良い空間を作ることができました。一方で「ブレース」という耐震部材を採用することで、マクレイ記念館では建築基準法で定められた性能の1.25倍もの耐震性能を確保しています。
――「進化する図書館」という要素についてはいかがでしょうか。
根岸 将来的なニーズにも対応できるよう、各階のAisleやラウンジ、プレゼンテーションルームには移動可能な什器を配置するなど、可変性を重視した設計としています。その一方でガランとした無個性な空間とならないよう、メリハリのある空間デザインを意識しました。
原 今回導入されたICタグも、図書館としての「進化・拡張」に大きな役割を果たしています。ICタグを用いて情報を一元化することで、本のセルフ貸し出しなどが可能になりました。図書館フロアでは、各閲覧席からよく見える位置に80万冊の収蔵能力を持つ自動書庫を設置していますが、2025年度には、学生自身が自動書庫を操作して本を取り出すというシステムも運用開始を予定しています。こうしたシステムを通じて、膨大な「知」へのアクセスの可能性が大きく広がります。
■ 利⽤者へのメッセージ
――最後に、学生を中心とした利用者へのメッセージをお願いします。
根岸 マクレイ記念館において「青学らしさ」をいかに表現するかというのは大きなテーマでした。社内でも議論を重ねた結果、キリスト教を教育の土台としている大学である点に着眼し、教会建築などにみられる「列柱廊を備えたガレリア」を設けるに至りました。柱の種類は、間島記念館と同様の円柱とすることで、受け継がれる歴史の重みを表現しています。さらに、学生の皆さんを明るく迎え入れるイメージを込めて、円柱のデザインは端正かつ華やかさのあるルネサンス様式としました。マクレイ記念館の設計に当たっては、多彩な利用シーンを想定し、あらゆる工夫を盛り込んできたつもりですが、学生の皆さんには、そうした予想も超える豊かな使い方をしていただければと思っています。
原 「学生の皆さんが『ここに来たい』と思えるような、楽しい図書館を作りたい」という思いを胸に建築計画を進めてきました。基盤部分からインテリアなどの細部まで工夫を重ね、本学らしく洗練された図書館、そして情報メディアセンターになったのではないかと思います。マクレイ記念館から中庭エリアまで多彩なスペースを用意できましたので、学生の皆さんには、ぜひ自分の好きな「居場所」を見つけていただき、思う存分使っていただきたいと思います。
間島記念図書館(現 間島記念館)建設エピソード
清水建設の前身である清水組社長を務めた清水釘吉は、青山学院の源流のひとつである東京英和学校に学び、1923年に発生した関東大震災後の東京都復興に努め、本学がまた震災で壊滅的な被害を受けた際、その復興にも尽力されました。1929年に完成した間島記念図書館の建築にあたっては、清水組として設計・施工に携わったほか、資金難により工事が頓挫の危機に見舞われた際には個人による巨額の寄付を行い、間島記念図書館の完成を支えてくださいました。まさに清水氏は本学が掲げる「サーバントリーダーシップ」を体現する人物といえます。
各フロアのご紹介
「+」をクリックすると、各階の設備に関する内容が表示されます。
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B1F 情報メディアセンター
オールジェンダートイレ
地下1階と1階には、フィッティングボードを備えた目的別トイレとしてオールジェンダー対応の個室トイレを設けています。その他同フロアには男女別トイレとバリアフリートイレもあります。
1階へ続くB1Fホール
地下1階と1階をつなぐ階段状のホールは、カジュアルな発表の場やさまざまなイベントに活用できます。階段部分はベンチとして利用できるほか、周囲に設けられたカウンターは立ち見席としても使うことができます。
B1Fラウンジ
リビングのような落ち着いた雰囲気のラウンジです。くつろいで過ごせるようソファを配置し、ゆったりと本を読んだり会話を楽しんだりすることができます。インテリアや照明もややダークな落ち着いたトーンとしました。
IT講習会室
「IT講習会」で使用される教室です。建物の外周に配置することで、外の自然な明るさを取り入れました。ガラス張りで見通しの良い明るい空間です。IT講習会室は5室あります。
映像編集室(18006)
映像編集その他のクリエイティブな作業を行える部屋です。さまざまな機器類や可動式のスポットライト、暗幕設備などが整っています。キャスター仕様のデスクは組み合わせ自由で、広い作業スペースも設けられます。
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1F 情報メディアセンター
PC教室
PC教室は7室あり、スクールタイプとアクティブラーニングタイプの2種類のレイアウトがあります。
1Fラウンジ
アクティブな雰囲気のラウンジです。ニーズに応じた配置替えができるよう、手軽に移動できるタイプの家具を配置していますので、共同学習などにも便利なスペースです。
サポートラウンジ
PCの貸し出しやソフトウェアのライセンス提供など、情報メディアセンターが提供するサービスに関する質問・相談を承ります。利用者の利便性を考え、フロア内の最もアクセスしやすい場所に設置しました。
受付
マクレイ記念館の総合受付です。近くには電子機器類の貸し出しロッカーや相談ブースなどもあり、学生の多様なニーズに応えます。
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2F 図書館
新聞・雑誌、文庫、新書、各種参考図書ラーニングコモンズ
個人からグループ学習まで、電子情報を含むさまざまな情報資源を活用して学べるアクティブなスペースです。旧青山学院女子短期大学芸術学科所蔵の美術・デザイン系の本や植栽をあしらい、洗練された空間です。
アカデミックライティングセンター
レポートや論文の執筆など、学生に向けて学術的な文章のライティング支援を行っています。アクセスの良さを考え、2階入り口付近に設置しました。国際的に通用する、「自ら書ける力」を養うことを目指しています。
メインカウンター /
レファレンスカウンター利用案内、資料探しの相談に応じています。周辺には自動貸し出し機や図書返却用のブックポスト、マイクロフィルム閲覧用のマイクロリーダーなどがあります。
⾃動貸し出し機 / ブックポスト
自動貸し出し機は、利用者自身で簡単に本の貸し出し・延長の処理を行うことができます。また、投函することだけで図書の返却処理ができるブックポストが2階のセキュリティゲートの前後にあります。
新着雑誌コーナー
学びの導入部となる図書館のエントランスフロアでは新聞や雑誌、新書、文庫をはじめ多彩な媒体に触れることができます。中央閲覧スペースの新着雑誌コーナーでは、雑誌の表紙が見えやすい「面出し」の書架を採用しました。
閲覧スペース
閲覧スペースは、学生の多様なニーズに合わせ、開放的な場所から静音性重視の場所までメリハリのあるゾーニングを行っています。家具や照明、床面装飾にも工夫も凝らし、変化のある空間としました。
シャローム・ライブラリー
キリスト教図書コレクションを配架しています。相模原キャンパスのウェスレーチャペルと同じ作家・滝澤やまと氏による大学所蔵のステンドグラスも展示された、美術館のような空間です。
テラス
アイビー通り側に設けられた屋外スペースです。広いウッドデッキとカジュアルな家具類が印象的なスペースです。
Aisle Photo Gallery
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3F 図書館
経済学・経営学などの社会科学、科学・物理など自然科学の書籍閲覧スペース
閲覧スペースは、学生の多様なニーズに合わせ、開放的な場所から静音性重視の場所までメリハリのあるゾーニングを行っています。家具や照明、床面装飾にも工夫も凝らし、変化のある空間としました。
テラスルーム 〜 テラス
3階のテラスには、ガラス張りのテラスルームや、ハーブの植えられた花壇が設けられています。新年度の緊張が途切れがちになる5月には特に香りの良い花が咲き、香りからもリフレッシュできるようにしています。
グループ学習室
用途に応じた豊富な学習スペースです。多様な利用形態に対応できるよう、さまざまな組み合わせが可能な家具を選定しています。
Aisle Photo Gallery
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4F 図書館
文学・歴史など人文科学の書籍と大型本⾃動書庫
4階から6階にかけ設置された自動書庫は最大80万冊を収蔵可能です。ガラス張りのデザインにこだわり、4階・5階の閲覧室からは自動書庫の内部を見ることができます。
⾃動書庫セルフブース
利用者自身が自動書庫を操作して本を取り出すシステムを2025年度稼働に向けて開発中です。この仕組みを通じ膨大な「知」へのアクセスの可能性が大きく広がることが期待されます。
閲覧スペース
閲覧スペースは、学生の多様なニーズに合わせ、開放的な場所から静音性重視の場所までメリハリのあるゾーニングを行っています。家具や照明、床面装飾にも工夫も凝らし、変化のある空間としました。
⾳読室
語学学習のための音読や、電卓など音の出る機器を利用する際に便利な防音性の高い部屋です。音読室は館内に4室設けられています。
グループ学習室
用途に応じた豊富な学習スペースです。多様な利用形態に対応できるよう、さまざまな組み合わせが可能な家具を選定しています。
Aisle Photo Gallery
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5F 図書館
芸術系の書籍、和雑誌・洋雑誌のバックナンバー、紀要等電動集密書架
収蔵能力約20万冊となる電動書架は、ボタン一つで操作できます。閲覧スペース内に設置されているため学生はいつでも気軽に本を手に取れます。挟まれ防止のセンサーによる安全対策も万全です。
研究個室
中庭をのぞむ研究個室は開放的な雰囲気がありつつも、課題や論文執筆といった集中力を要する作業に最適です。「研究個室13」は車椅子対応の昇降机と自動ドアを備えています。
閲覧スペース
閲覧スペースは、学生のあらゆるニーズに合わせ、開放的な場所から静音性重視の場所までメリハリのあるゾーニングを行っています。家具や照明、床面装飾にも工夫も凝らし、変化のある空間としました。
中庭
専門性の高い資料や研究個室を配した5階フロアから出られる庭園です。ハーブを中心にさまざまな植物が植えられ、嗅覚や視覚から勉強の疲れを癒すことができます。新鮮な空気を吸ったり、軽く体を動かしたりするなど気分転換に。
グループ学習室
多用途に応じた豊富な学習スペースです。多様な利用形態に対応できるよう、さまざまな組み合わせが可能な家具を選定しています。
Aisle Photo Gallery
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6F 図書館
プレゼンテーションルーム
120名を収容可能です。中庭の30mを超えるヒマラヤスギの幹をイメージした天井デザインが特徴的で、使途に応じさまざまなレイアウトに対応します。大型プロジェクター、自動追尾カメラも完備しています。
EXTERIOR 外観
Exterior Photo Gallery