AGU NEWS 特集

障がい学生支援センター
誰もが学びやすいキャンパス
を目指して
2024. 11.21

入学から卒業まで、総合的な支援を目指す

2018年4月に開設した「障がい学生支援センター」。青山学院の教育方針であるキリスト教信仰にもとづく教育に沿って、さまざまな障がいのある学生に対し、専門の支援コーディネーターを中心に学生サポーターも加わり、さまざまな支援活動を展開しています。その多彩な活動内容について、支援センター長、支援コーディネーター、学生サポーター、支援を受ける学生からお話を伺いました。

「障がい学生支援センター」について

青山学院大学における
「障がいの社会モデル」の実現を目指して
支援センター長
社会情報学部社会情報学科 教授

長橋 透

経済学修士(青山学院大学)。青山学院大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程単位取得満期退学。専門分野は経済学、 経済政策論、 産業組織論、 観光経済論。宮崎産業経営大学経営学部・経済学部助教授・准教授、浜松大学国際経済学部教授を経て、2008年から本学社会情報学部社会情報学科教授。2018年障がい学生支援センター長に就任。

本センターの理念と活動目的

本学「障がい学生支援センター」は、障がいなどの理由で修学上支援が必要な学生の「窓口」として、学部・学科や関係各部署などと連携しながら、障がいのある学生への総合的な支援を行ってきました。

本センターの活動は国連の障害者権利条約(2006年)に反映されている「障がいの社会モデル」という考え方をベースにしています。これは障がいのある人が直面する困難は、決して個人の問題ではなく社会に起因するとする考え方で、大学に当てはめると「障がいのある学生が何らかの不利益を被るのは、障がいのない学生を前提にした従来の授業方法や制度・施設などに問題がある」と解釈することができます。

本センターはこうした考え方に基づき、障がいのある学生が思う存分教育・研究に打ち込める環境づくりをサポートするとともに、教職員に対する理解・啓発活動やキャンパス施設のバリアフリー化の推進などにも取り組んできました。【図1】から分かるように、本学に在籍する障がい学生は増加傾向にあります。また、【図2】にも示されている通り、外見からは分かりにくい発達障がいと精神障がいに占める割合が大きくなっています。症状や程度は一人一人異なるため、障がいのある学生からの申し出やそれに対する配慮の内容も一人一人異なることを、改めてご理解いただきたいと思います。

【図1】在籍障がい学生数と全学生(約21,000人)に占める割合
【図2】参考資料:在学障がい学生数(2024年6月)

本センターの活動を支える支援コーディネーター

繰り返しになりますが、障がいや病気、ケガの程度は個人によって異なります。支援におけるマニュアルやガイドラインを設定することは極めて困難であるため、本センターでは十分な知識とスキルを有した専門の支援コーディネーターが、本人と保護者、所属学部の教員、教務課などの職員を交え、各学生に応じた最適な支援を目指していきます。現在は青山キャンパスに精神系3人と身体系1人、相模原キャンパスには精神系2人と身体系1人の支援コーディネーターが在籍しています。彼らはまた学生サポーターの育成・指導も行っています。

幸いこの6年間で、本センターの活動に対する学内における理解は大きく進展しました。今後も学内一丸となってすべての学生の「学ぶ権利」が守られ、多様な価値観を認め合うことができるキャンパスの環境整備に力を注いでいきたいと思います。

主な支援内容・支援の流れ

本センターでは入学前から在学中、さらに卒業後の就職・社会参加まで切れ目のない支援を目指しています。高校から大学生活への移行、入学後は通学・履修・授業・キャンパス内の移動など一人一人の学生がどのような支援を求めているか支援コーディネーターが把握し、所属学部・研究科教員、関連部署の職員との「建設的対話」を通して、他の学生と同等の教育・研究の機会が得られるよう支援方針案を決定します。具体的な「支援の流れ」は、下記リンク先をご参照ください。

「支援の流れ」詳細はこちら

センターの活動を担う支援コーディネーターと学生サポーター

▼説明していただいた方

支援コーディネーター
(青山キャンパス)
関戸美音

大学で障がいのある人たちと一緒にスポーツ活動を行った経験から、大学院で情報保障学を専攻。修士(情報保障学)(筑波技術大学)。2021年4月から障がい学生支援センター助手。

支援コーディネーター
(相模原キャンパス)
長谷川大也

自身も視覚障がいがあり、大学・大学院を通して特別支援教育を専攻。修士(障害科学)(筑波大学)。2021年4月から障がい学生支援センター助手。

◆支援コーディネーターの仕事とは?

私たちの仕事は、視覚障がい、聴覚障がい、肢体不自由、精神障がい、発達障がい、病弱・虚弱等における機能障がいや疾患のある学生が修学する上での支援や合理的配慮を希望した場合、本人や保護者と面談することから始まります。その要望を受けて各学部・研究科、教務課等の教職員との「建設的対話」を経て、具体的な支援に関する連絡・調整を行います。

支援コーディネーターは一人当たり30~40人ほどの学生を担当し、在学中は授業・学生生活・卒業後の進路などについて相談に応じています。障がいの種類や程度、修学上の困りごとは学生によって異なりますので、まずは各学生の話をしっかり聴くことが大切です。担当している学生が楽しく学生生活を送り、卒業していく姿を見ることが何よりのやりがいです。さらに、充実した本学の「障がいの社会モデル」構築に向けた障がい学生支援に関する理解・啓発活動による学内バリアフリーの推進や広報にも力を入れています。 また、授業支援に協力をしてくれる学生サポーター(下記参照)の育成や、彼らが支援を行うための連絡・調整も私たちの大切な仕事です。

◆学生サポーターの役割とは?

障がい学生支援センターでは、障がいがある学生のサポート活動に従事する学生サポーターを随時募集しています。学生サポーターの都合の良い時間を利用して、さまざまなサポート活動が行われています。聴覚障がい学生が受講する授業に同席して行う「手書きノートテイク・PCノートテイク」、授業内で使用するDVDなどの映像教材やオンデマンド授業の音声を文字化する「映像教材文字起こし・字幕付け」、肢体不自由や視覚障がい学生などの「移動サポート」の他、学内バリアフリー調査・マップ作成なども行っています。

クロストーク 障がい学生 × 学生サポーター

学生サポーター
教育人間科学部 心理学科 4年
清原 杏子

学生サポーター
社会情報学部 社会情報学科 4年
石黒 裕海

聴覚障がい学生
社会情報学部 社会情報学科 2年
黒田 航宇

■「障がい学生支援センター」を介したつながり

――まず皆さんの自己紹介を兼ねて、障がい学生支援センターとの関わりについてお話しください。

黒田 私は生まれつき聴覚と視覚に障がいがあります。青山学院大学を志望したきっかけはオープンキャンパスへの参加でした。社会情報学部の学部体験イベントでお話しした先生から、青学では障がいのある学生への支援や合理的配慮に積極的に取り組んでいると伺いました。また障がい者をサポートするテクノロジーの研究をするゼミナール(ゼミ)もあると伺い、入学したいと思いました。入試に当たっては障がい学生支援センターに問い合わせ、人工内耳や補聴器の着用、試験用紙の拡大などへの配慮をお願いしました。合格が決まった後には、大学生活を送るために必要だと思われる授業のノートテイクなど、具体的な支援について相談しました。

誰が何を話したか、リアルタイムに可視化するツールを使用してクロストークを実施


石黒さん
石黒 黒田さんとは社会情報学部の「ヒューマンインタフェース」という授業でご一緒しましたね。

黒田 はい。大変お世話になりました。同じ学部の先輩なので一度じっくりお話ししたいと思っていました。なぜ石黒さんは学生サポーターを務められているのですか?

石黒 私は高校時代にチアリーディングをやっていたのですが、チームに聴覚障がいのある仲間がいました。私たちは彼女が音楽に合わせて演技するのを助けるため、腕や肩を手でたたくなどして音楽のリズムを伝えました。彼女は笑顔で楽しそうに私たちと演技していました。人一倍の努力をしているはずなのにそれを感じさせず、心からチアリーディングを楽しむ彼女の姿に、私の方が勇気をもらいました。大学でも機会があれば障がいがある方をサポートできればと思っていたところ、ゼミの先生で障がい学生支援センター長を務める長橋教授から学生サポーターとして活動することを勧められました。実はまだサポーターになって日が浅いのですが、分からないことがあったらコーディネーターの方々にすぐ聞くようにしています。黒田さんをはじめノートテイクのお手伝いをしている学生から「ありがとうございました」と言っていただけると、「本当にやって良かった」と心から思えます。

石黒さん

黒田 学生サポーターの皆さんのおかげで障がいのない学生と変わらぬ教育を受けることができているわけですから、いつも心から感謝しています。清原さんには「キリスト教概論」などの授業でリモート操作によるノートテイクをしていただいていました。今日初めて直接お会いすることができ、とてもうれしいです。

黒田さん

清原 私もうれしいです。私が学生サポーターになったきっかけは、3年生のときに青学の学生ポータルサイトで障がい学生支援センターが開催する「ノートテイク養成講座」を知ったことでした。心理学科で障がい者支援について学んでいたこともあり、学内の活動として実践できることは自分にとっても大きなチャンスだと思い、すぐに学生サポーターに登録しました。昨年は車いすを使用する学生の移動支援が中心でしたが、今年からコーディネーターの方による講習を経て授業のPCノートテイク、発達障がいのある学生の学生相談なども行うようになりました。

清原さん

■「ノートテイク」や「学習相談」など、サポーターによる支援の実際について

――石黒さんと清原さんが行っているノートテイクの支援について、教えてください。

石黒 私はノートテイクを始めてまだ2カ月ほどです。ノートテイクの技術については事前に支援コーディネーターの方々からしっかり教えていただいていたのですが、実際やってみると先生の話すスピードについていくためには集中力も必要ですし、2人1組で行うパートナーとの息の合わせ方など、なかなか難しいですよね。

黒田 ノートテイクは2人1組が基本なのですね。

清原 ええ、人間の集中力には限界がありますから、授業時間を通して1人がノートテイクをするのはなかなか難しいものがあります。そこで基本的には2人の学生サポーターが担当し、2時間の授業では4人で担当することもあります。といっても時間を決めて交代するのではなく、ちょうどテニスのダブルスゲームみたいに、先生の話の区切りやタイミングを見計らって、いわば「あうんの呼吸」で交代しながらパソコン、あるいは手書きでノートを作るわけです。そこでは、サポーター同士の信頼に基づく連携が必要になります。

ノートテイクは2人一組が基本

石黒 私もようやくノートテイクの連携に慣れてきたところです。先日は英語の授業の手書きノートテイクに携わったのですが、日本語の授業とはまた別の難しさがありました。

清原 確かに語学の授業は苦労しますね。普段授業で取っている自分のためのノートではなく、他人に分かりやすいノートを作ることは本当に大変です。なかなかうまくいかなくて悩んだこともありますが、長橋先生や支援コーディネーターの方々に励まされながら、なんとか頑張ることができました。

黒田 清原さんは発達障がいのある学生の学習相談も担当されているそうですが、具体的にどのような活動をされているのですか?

清原 月2回程度、担当している学生から今困っていることを聞き出したり、テストやレポートのスケジュール確認、さらにどのように勉強を進めたらよいか上級生の立場からアドバイスしたりしています。特に学生生活の話が参考になるらしく、とても喜んでくれてやりがいを感じています。最初の頃は「私の話なんて本当に役立つのかな?」と自分でも不安だったのですが。

黒田 今日のお話から、お二人は支援における強い思いをお持ちであること、そしてとてもフレンドリーなお人柄であることを感じました。

石黒 私は黒田さんと同じ学部なので、今後のゼミ選びや卒業後の進路についても相談に乗れると思いますよ。

黒田 ぜひお願いします。私としては、学部での学びを通じて、障がい者や障がい者支援に対する視野が広がっています。それとはまた別に実は今、どのゼミで研究に取り組むか迷いに迷っているところなのです。

石黒 学問分野を超えた広い視野で学べることが社会情報学部の魅力ですから、今は大いに迷われても良いと思いますよ。もちろん私の知っていることであれば、なんでも聞いてください。

黒田 ありがとうございます。石黒さんのアドバイスも参考に、最終的には自分と向き合って悔いのないチョイスをするつもりです。


■ 学生サポーターとしての出会いが、自分の成長につながった

――石黒さんと清原さんに伺います。学生サポーターの活動を通して感じたこと、得られたものについて、それぞれ教えてください。

石黒 先ほどノートテイクでの信頼と連携という話がありましたが、学年も学部も異なる学生と交流できたことが貴重な経験となりました。学生サポーターをやっていなければ知り合えない方々との出会いによって自分自身の視野や活動範囲が広がりましたし、支援コーディネーターの方々も含めて皆さん優しい方ばかりでした。また、就職活動において学生サポーターのことを面接で話すと、非常に関心を持って話を聞いていただけました。来年からは公務員として働く予定なのですが、可能な限り障がい者支援と関わっていけたらと思っています。

清原 私も学生サポーターの活動を通して多くの出会いがあり、一つ一つがとてもかけがえのないものでした。もし学生サポーターに対して敷居の高さを感じている人がいるのであれば、気軽な気持ちで一歩を踏み出していただきたいですね。空き時間を利用して無理なく活動できますし、サポーターの仲間やコーディネーターの方々、さまざまな障がいのある学生たちとの交流の中で、社会や障がいに対する自分の考えが広がっていくことが実感できると思います。また、当センターの支援を迷っている学生に対しては「あなたの学生生活を全力でサポートしたいと思っている人たちが、ここにはいますよ」ということを知っていただきたいです。他人から支援を受けることは決して悪いことでも恥ずかしいことでもありません。そして「学生サポーターとして活動してみたい」という方がいれば、ぜひ一緒に楽しく活動していきたいですね。きっと、充実した活動になると思います。

黒田 今日はお二人の話を聞けて本当に良かったです。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

石黒・清原 もちろんです。こちらこそ。これからも一緒に楽しいキャンパスライフにしましょう。