特集 1

航空宇宙分野
における
本学の取り組み

宇宙を見据えた研究を推進

近年、アメリカで民間企業の宇宙船が実用化され、宇宙飛行士ではない人たちも宇宙に行く機会が増えました。これから宇宙開発はますます私たちの身近なものになってくるでしょう。青山学院大学理工学部、理工学研究科では航空宇宙分野の研究や教育も盛んに行われています。

連携大学院制度も活用し、学生に幅広い研究分野を提供

理工学部 機械創造工学科 教授 理工学部長、理工学研究科長

長 秀雄

青山学院大学 大学院理工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程修了。博士(工学)(青山学院大学)。本学 理工学部 機械工学科 助手、東北大学 大学院工学研究科 助手、本学 理工学部 機械創造工学科 助手を経て、2007年、本学 理工学部 機械創造工学科 准教授に着任し、2013年から教授。本学理工学部長、大学院理工学研究科長を歴任。

宇宙は科学を代表する大きなテーマの一つで、多くの人たちに夢を与えてくれます。宇宙の話を聞くと目を輝かせる学生たちもたくさんいます。本学の理工学部は7つの学科で構成されていて、数学や物理学などの理学から社会科学の視点を持つ経営システム工学まで、幅広い学問分野を学ぶことができます。その中の物理科学科と機械創造工学科の2つの学科で宇宙や航空の研究に取り組んでいる教員や学生がいます。

宇宙は物理学の中でも大きなテーマの一つで、物理科学科では3人の教員が理論や観測をもとに研究を進めています。一方、機械創造工学科は、ものをつくったり、制御したりすることを主軸にしています。ものづくりはさまざまな産業を支える基盤となるものです。航空宇宙分野でも、航空機や宇宙機をつくる際には、機械工学の知識が必要となります。機械創造工学科では、機械力学や材料工学などの研究をしている教員が、航空宇宙分野にも関わっています。

ひと口に航空宇宙分野と言っても、アプローチの方法は多様にあります。本学の場合は、宇宙そのものの研究をしている物理科学科だけでなく、機械や材料を通しても宇宙や航空に関する研究をすることができます。それぞれの学生の興味に合わせて関わることができるので、幅広いラインナップがあることは、理工学部の大きな強みです。

本学におけるJAXAに関連した学びの体系

本学は、他大学や研究機関とさまざまな形で連携をしています。航空宇宙分野では宇宙航空研究開発機構(JAXA)との連携大学院協定を締結していて、希望する大学院生がJAXAで研究を行っています。連携大学院は、本学の学生をJAXAの研究室で受け入れ、JAXAの研究者(教員)が研究を指導する枠組みです。もちろん、学生は本学に所属しているので、本学の教員とも連携し、学生をサポートしていきます。

本学の理工学部は規模の大きな国立大学と異なり、すべての分野を押さえることはできません。しかし、連携大学院で学外の専門家が学生の研究の指導をしていただくことで、学生により幅広く、研究を提供することができます。

JAXAの研究者から直接指導を受けられることは、学生にとってもモチベーションが上がると思います。理工学部のある相模原キャンパスは、JAXA宇宙科学研究所がすぐ近くにあります。そのため、お互いの行き来がしやすく、連携や共同研究がとてもやりやすいという利点があります。

物理科学科では、3年生に向けて「最新物理講義」という授業を開講しています。この授業では、連携大学院で客員教員を務めているJAXAの研究者や外部からの講師を招いて講義をしています。さまざまな研究に関する話を聞くことで、卒業研究や将来の進路などについて考えるきっかけになるでしょう。学生には、自分の興味や関心から研究テーマや進路を選択してもらいたいと思っています。

「連携大学院方式」 制度概要
(宇宙航空研究開発機構『新しい JAXAの学生受入制度』より)

◆「連携大学院方式」とは?
JAXAと大学の継続的・包括的な協定に基づいて、JAXA研究者を大学の教授・准教授等に委嘱し、委嘱されたJAXA研究者が大学教員と同等の立場で、一定期間、学生をJAXA内に受入れて大学院教育(教育及び研究の指導)を行う制度です。論文指導を含む教育・研究指導を行うほか、通常は、教員となったJAXA研究者が学位論文の指導教員になります。

◆「対象となる学生」は?
国内外のJAXAと連携大学院協定を締結している大学院の研究科に在籍している大学院生です。
※ 科目等履修生、研究生は除く

◆指導してもらえる範囲は?
論文指導を含む教育・研究指導(大学院教育)です。

◆「機構への受入期間の上限」
教育・研究指導に必要な年限です。

JAXA 宇宙科学研究所 相模原キャンパス

宇宙物理学分野での取り組み

理工学部 物理科学科 教授

坂本 貴紀

東京工業大学大学院 理工学研究科 基礎物理学専攻 博士課程修了。博士(理学)(東京工業大学)。理化学研究所 牧島宇宙放射線研究室協力研究員、NASA Postdoctoral Program Fellow、University of Maryland Baltimore County,Research Associateなどを経て、2012年、青山学院大学理工学部 物理・数理学科 助手に着任し、2019年から教授。

物理学は理論と観測・実験の研究に大きく分かれていて、お互いに影響を与えながら学問を発展させていきます。物理科学科には宇宙物理学に関連する研究室が3つあり、理論的研究も観測的研究も、どちらも選ぶことができます。

理論的研究は、自分で構築した理論モデルを用いて、天体などから観測される現象を予測します。一方、観測的研究は、新しい観測装置を開発したり、実際に天体を観測し、得られたデータを解析することで、理論予測を制限したりして、新しい知見を積み重ねていきます。

私はX線やγ(ガンマ)線という波長の短い電磁波を使って天体を観測することを専門としています。JAXAとの連携大学院制度では、私の研究室と、同じように観測的研究を行っている吉田篤正先生の研究室から、JAXAの吉田哲也先生の研究室に1人ずつ学生を派遣しています。吉田哲也先生は宇宙を満たしていると考えられているダークマターなどを起源とする宇宙線中の反粒子・反物質探索を目的とした国際共同南極周回気球実験を推進しています。

現在、私は超小型速報実証衛星ARICAを打ち上げ、運用していますが、この衛星のアイデアは、吉田哲也先生の大気球の実験で、民間の通信機器を使っているという話を聞いて思いついたものです。連携大学院制度は、学生自身の研究分野を広げるだけでなく、教員である私の視野も広がり、新しいアイデアを生み出すきっかけとなっています。

超小型速報実証衛星ARICA

連携大学院制度で吉田哲也先生の研究室に学生を派遣している以外にも、JAXAと協力して進められている研究はいくつもあります。ARICAは10cm角のキューブサットという超小型衛星で、JAXAの革新的衛星技術実証2号機の実証テーマの一つに選ばれ、JAXAの小型固体ロケットイプシロン5号機で2021年11月9日(火)に打ち上げられました。

キューブサットは大学でも製作できますが、それを宇宙に運ぶ方法は限られます。ARICAの制作費にめどが付いたときは、打ち上げまで具体的に考える余裕はありませんでした。幸い同じ時期に、革新的衛星技術実証2号機の公募があったので応募し採択されました。ARICAは全体設計、搭載する基板の設計、衛星の電源やセンサー周りの制御システム開発、γ線検出器の開発、通信端末の制御システム開発など全てにおいて学生主導で行われ、完成した衛星です。採択されたことで開発に遅れが許されなくなりましたが、学生たちの尽力のおかげで、2021年4月のJAXA宇宙科学研究所の施設での衛星の熱真空試験、5月と7月の九州工業大学の施設を利用した振動・衝撃試験を経て、8月中旬にロケット側への衛星の引き渡しをすることができ、無事に宇宙に行くことができました。衛星から送られてくるデータを可視化するためのプログラム開発、打ち上げ後の運用も学生が中心となって行っています。

ARICAは宇宙で突然発生するγ線バーストを速報する技術を実証するための衛星です。この衛星の速報システムは、日本独自のγ線バースト観測衛星HiZ-GUNDAMにも搭載される予定です。HiZ-GUNDAMは、現在、JAXAの公募型小型衛星プロジェクトの候補衛星の一つとなっています。採択されれば、衛星の製作や運用でJAXAの人たちとの関わりはもっと増えていくことでしょう。

イプシロンロケット5号機(鹿児島県肝付町 内之浦宇宙空間観測所)

MOVIE

宇宙誕生の謎を解き明かす第一歩に。
2021年11月9日(火) ARICA宇宙へ!


宇宙遠方での明るい光源として利用する事で、宇宙初期の様子が探査できるγ線バースト。「ARICA Project」は新しいγ線バースト速報システムの実証を目指して、坂本研究室の学生が主体となって取り組んでいるプロジェクトです。
ロケット打ち上げ直前から当日までの、坂本教授や研究室メンバーの軌跡を収めたドキュメンタリー動画です。

坂本研究室 インタビュー

速報実証衛星 ARICA の開発および
その打ち上げを振り返る

理工学研究科 理工学専攻 基礎科学コース 博士前期課程2年

畑 泰代

理工学部 物理・数理学科4年
(※2021 年度より、物理・数理学科は「物理科学科」「数理サイエンス学科」に改編)

鴨志田 一真

坂本研究室で開発し、イプシロンロケット5号機で打ち上げられたARICA。学生が主体となって開発、運用されたその舞台裏を、打ち上げ成功の喜びの声とともに伝えます。

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突発的な天体現象から
ダイナミックな宇宙を知る

理工学部

坂本 貴紀 教授

宇宙で発生するγ線バーストや超新星爆発といった激しい天体現象を観測するための技術実証プロジェクト「速報実証衛星ARICA」に触れつつ、この先の宇宙観測について考察します。

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航空宇宙工学分野での取り組み

宇宙分野

理工学部 機械創造工学科 准教授

菅原 佳城

名古屋大学大学院工学研究科電子機械工学専攻博士後期課程満期退学。博士(工学)(名古屋大学)。東大阪宇宙開発協同組合 研究員、東京大学 大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻産学官連携研究員、青山学院大学理工学部 機械創造工学科 助手・助教、秋田大学 工学資源学部 機械工学科 准教授などを経て、2016年、本学 理工学部 機械創造工学科 准教授に着任。現在に至る。

私の研究室では、宇宙で活用するロボットアームの高精度な制御方法の開発、惑星着陸機の着陸システムの開発などの研究を行っています。宇宙環境でさまざまな動作をさせる宇宙機は、事前に宇宙と同じ環境で試験をすることが困難です。

特に、私の専門である機械力学分野は、重力の影響を大きく受けます。重力がほとんどない宇宙空間でのものの動きは、重力のある地上での動きとは全く違います。地上では、数秒間の落下実験などで部分的に宇宙空間を模擬する実験しかできません。

そこで重要になるのがシミュレーションによる検証です。コンピュータ上に宇宙空間を再現し、そこで機械を動かすとどのような運動をするのか調べることで、地上での実験や試験を効率的に実施することができ、宇宙機の開発費用を抑え、しかも、短期間で開発することが可能になります。

シミュレーションで機械の運動をより正確に再現するには、その様子を数式で表現した数学モデルをつくる必要があります。数学モデルは機械を希望通りに動かすための制御のしかたを考える際にもとても重要になります。そのため、運動学や動力学を基礎に数学モデルの構築、シミュレーションでの解析、制御方法の開発などを行っています。

変形して様々な機能を実現できる「トランスフォーマー宇宙機」。右は観測モード、左は全展開モードの様子

私の研究室からも連携大学院制度で、JAXAの森治先生の下で研究を進める大学院生を送り出しています。大学院生はJAXAで実際に打ち上がる宇宙機の開発を進めたり、打ち上げ後の運用をしたりと、実践的な課題に挑みながら、宇宙工学の学術的な研究に携わっています。

連携大学院制度では、その大学院生の指導教員は森治先生になります。連携大学院制度は大学院生を対象にした制度ですが、大学院での研究をより充実したものにするためには、学部4年生からの準備が大切になります。そこで、学部生も対象となる技術習得方式で、学部4年生からJAXAの先生の技術指導が受けられるような状況をつくっています。

また、本研究室はJAXA宇宙工学委員会ワーキンググループ「トランスフォーマー宇宙機の実現とその応用に関する研究」の研究活動に参加しております。トランスフォーマー宇宙機とは、宇宙空間で形を変えることで、1機で多様な機能を実現するものです。現在、JAXAをはじめ、さまざまなグループと共同で研究開発を行っています。2020年代前半には実証機となる小型ロボットを用いた軌道上実証を行う予定で、それに向けてのロボット開発を進行中です。

北海道の落下塔実験施設で実施した、トランスフォーマー宇宙機に必要となる技術の小型ロボットを用いた微小重力実験(2021年3月)

航空分野

理工学部 機械創造工学科 准教授

蓮沼 将太

東京大学大学院 工学系研究科 博士課程修了。博士(工学)(東京大学)。富士重工株式会社 産業機器カンパニー 製造部、本学 理工学部 機械創造工学科 招聘研究員、助教を経て、2020年、准教授に着任。現在に至る。日本材料学会 疲労部門委員会「初心者のための疲労設計講習会」の講師なども務める。

航空機も宇宙機も機体をつくるためには、いろいろな材料が必要となります。材料の進歩によって、より軽く、より強い機体をつくることができます。実際の社会では、航空機や宇宙機はつくるだけでは終わりません。つくった機体を安全に運用する必要があります。私の専門である材料強度学は、材料の強度や破壊、変形の過程を研究し、航空機や宇宙機をはじめ、さまざまな機械の事故を未然に防ぐための知見を積み重ねています。

私の研究室では、材料強度学を研究しており、前任者の時代を含めると20年以上、JAXAの研究室と連携しています。理工学部は現在の相模原キャンパスに移る前は、世田谷にキャンパスがありました。JAXAの前身の一つである航空宇宙技術研究所(現在の「JAXA調布航空宇宙センター」)が近くにあったことから、研究者同士の個人的なつながりで連携するようになったのだと思います。

材料強度学研究室だけでなく、理工学部内の複数の研究室で航空宇宙技術研究所の研究員とつながりを持っていたことが、JAXAとの連携大学院にもつながっています。相模原キャンパスはJAXA宇宙科学研究所が近いので、JAXA調布航空宇宙センターだけでなく、JAXA宇宙科学研究所の研究者とも交流を深めています。大学院の機械創造コースでは、JAXAの研究員が非常勤講師として「宇宙構造材料工学特論」「航空宇宙工学特論」といった講義を受け持っています。

JAXAにて試験を行う本学の大学院生

材料系の研究室でJAXAの連携大学院制度を活用し、JAXAで研究を行っている大学院生は4人です。材料強度学研究室は、JAXAの熊澤寿先生と連携しています。熊澤寿先生の研究室では、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を液体水素タンクに活用するための基礎研究を行っています。

現在の旅客航空機は化石燃料に大きく依存しており、二酸化炭素の排出によって環境に負荷をかけていることが問題となっています。液体水素は次世代航空機の燃料の1つとして注目されていますが、-252.6℃と沸点が低く、化石燃料よりも扱いにくいという難点があるのです。熊澤寿先生の研究室では、-250〜-200℃という極低温環境でのCFRPの強度などの特性を評価しています。

最先端の航空宇宙研究に触れることで、学生にとって大きな刺激となっています。また、私自身も、研究対象ではない材料のことも知ることができるので、知識の幅が広がっています。現在、私はジェットエンジンに使われるタービン翼の遮熱コーティングの特性評価や、ハイブリッドロケット用タンクの溶接部分の疲労強度評価の研究を進めています。ハイブリッドロケットはロケットをより安全に、より安く打ち上げる技術として注目されています。疲労強度の研究を通して、ハイブリッドロケットの実用化や打ち上げに貢献できたらうれしいです。

JAXAの熊澤寿先生(左)と連携大学院の学生

蓮沼研究室 インタビュー

人々の生活を守り、社会に変革をもたらす
材料の強度研究

理工学部 機械創造工学科/理工学研究科 理工学専攻 機械創造コース 材料強度学研究室

蓮沼 将太 准教授 × 加藤 裕太

鉄道、航空機、建築物などには、多くの材料が使われています。それぞれの機能をいかんなく発揮するためにも、材料の強度が重要です。こうした観点から研究を行っています。

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関連研究室 Pick UP(各研究室のサイトへリンク)

宇宙物理学理論

宇宙物理学の理論的研究(山崎了研究室)

ブラックホール誕生の瞬間、ガンマ線バーストの起源
高エネルギー宇宙線、高エネルギーガンマ線の放射天体の解明
宇宙の出来事を地上に再現する:実験室宇宙物理学

宇宙物理学実験

高エネルギー・重力波天文学(坂本貴紀研究室)

重力波源の電磁波対応天体の探査
高エネルギー突発天体の観測的研究


高エネルギー宇宙物理学、トランジェント天体研究(吉田篤正研究室)

人工衛星等を用いた天体現象の観測的研究および観測装置の開発
X線・ガンマ線領域での観測にもとづく突発天体現象の研究

機械制御研究(菅原佳城研究室)

ロボットの動力学と制御
宇宙機の動力学と制御
マルチボディダイナミクス
柔軟構造物の解析と制御

材料強度学研究(蓮沼将太研究室)

自動車、バイク、発電所用材料の強度評価
疲労破壊およびき裂進展に関する研究
破壊シミュレーション技術の開発
ナノマイクロスケールでの材料試験

ジェット推進研究(横田和彦研究室)

航空宇宙エンジンの流れ
航空宇宙飛翔体の流れ
マイクロエンジンの流れ
マイクロ飛翔体の流れ
流体関連振動と流体連成振動

材料力学研究(米山聡研究室)

粘弾性材料の力学挙動の解明
光および画像処理を用いた応力・ひずみ測定
き裂進展や屈曲などの現象の解明
橋梁などの実構造物の形状・変位測定
破壊力学パラメータや塑性域寸法の評価