AGU NEWS 特集 2

青山学院創立150周年記念
『祝いに集う青楽歌舞伎』
2024. 12.19

青学と歌舞伎界の絆から生まれた特別公演

2024年9月28日(土)、青山学院創立150周年を記念する『祝いに集う青楽歌舞伎』が青山学院講堂において開催されました。本企画は校友の中村芝翫さんが発起人となったもので、収益はチャリティーとして「青山学院万代基金」の給付型奨学金に充てられます。TBSアナウンサーの江藤愛さん(文学部英米文学科卒業)が総合司会を務め、校友の歌舞伎俳優の尾上菊之助さんと中村勘九郎さんによる「トークショー」、中村芝翫さんと中村橋之助さん、中村福之助さん、中村歌之助さん親子による「連獅子」の上演が行われました。

青学と歌舞伎のゆかり

青学歌舞伎に寄せて
青山学院大学 名誉教授
元文学部教授(日本近世文学)
元青山学院大学学長(第15代)

武藤 元昭

青山学院創立150周年、誠におめでとうございます。一人の校友として、その歴史を誇りに思い、今後の発展をお祈りいたします。この記念の年に『祝いに集う青楽歌舞伎』が開催されたことは、歌舞伎ファンとしても喜ばしい限りです。
私は中等部、高等部を卒業後、大学文学部日本文学科の教員として再び青山学院に戻る幸運に恵まれました。近世文学を専攻していた関係で歌舞伎を観る機会が増え、12代目市川團十郎さんが初等部から入学されたことを契機に、多くの歌舞伎関係者の方々が青山学院で学ばれるようになったことを知りました。現在もそれは変わっていないようで、深いご縁を感じます。

12代目市川團十郎氏(元日本文学科客員教授)の集中講義を書籍化

『團十郎の歌舞伎案内』(PHP新書) 12代目市川團十郎(著)
PHP研究所 2008年4月
ISBN:4569699294

2007年度の日本文学科の集中講義が本になりました。歌舞伎俳優の12代目市川團十郎さんが日本文学科客員教授として「歌舞伎の伝統と美学」をテーマに講義を行いました。この講義内容をもとにした歌舞伎入門です。江戸歌舞伎の最高の名跡を継ぐ氏ならではの、演者視点に立ったユニークな歌舞伎案内の書で、講義の雰囲気を彷彿とさせる語り口によって楽しく歌舞伎の知識を得ることができます。

【著者紹介】

12代目市川團十郎 1946‐2013年 東京都出身。
青山学院高等部を経て日本大学芸術学部演劇学科卒業。
1985年に、12代目市川團十郎を襲名する。
日本芸術院賞・フランス芸術文化勲章その他多くの受賞歴を持つ。

学院創立120周年公演会「青山が創る文化の集い」での12代目市川團十郎さん。左から、中村勘九郎さん、尾上菊之助さん、12代目市川團十郎さん、市川團十郎白猿さん(1994年10月29日、渋谷公会堂)

歌舞伎界に携わる最前線の校友がサーバント・リーダーとなって
オール青山で実現

青学歌舞伎公演を終えて 歌舞伎俳優
校友
『祝いに集う青楽歌舞伎』発起人・出演者

中村 芝翫

青山学院が創立150周年を迎えられたこと、心よりお祝い申し上げます。また『祝いに集う青楽歌舞伎』という素晴らしい外題も付けていただきました。公演をお支えくださった皆さまに深く感謝申し上げます。

公演では、歌舞伎の代表作の一つである『連獅子』を披露させていただきました。連獅子とは、親獅子の厳しい教育に見事に応える仔獅子の姿を描いた演目で、両者による息の合った豪快な毛振りが見どころです。獅子親子の絆は強く深く、青山学院の教育方針とも通じるところの大きい演目かと思います。

私は初等部から中等部までを青山学院で過ごしました。そして今から50年前にも、この青山学院講堂で創立100周年記念の舞台を務めさせていただきました。初等部生だった私は、父・7代目中村芝翫と兄・9代目中村福助、そして9代目坂東三津五郎さんと手を携えて舞台に上がりました。その同じ舞台にて、この度は息子たちと『連獅子』を踊らせていただけましたことは感無量であります。今度は息子たちが孫を連れて舞台に立てましたら、また、創立200周年などでも青山学院と歌舞伎の絆が続いておりましたら大変うれしいことです。

振り返りますと青山学院にはさまざまな思い出があります。なかでも礼拝を通して聖書を読んだり、讃美歌を歌ったり、聖書のお話を聞いたりといったキリスト教の学びは、歌舞伎役者という生業にも役立っていると随所に感じております。私は常々、お世話になった母校へ何か恩返しできたらと考えてまいりました。また、同じく校友である12代目市川團十郎さんも青学歌舞伎の実現を強く望まれていました。その志を引き継ぐ意味も込め、この度の『祝いに集う青楽歌舞伎』の発起人を務めさせていただきました。

青山学院からは数々の歌舞伎役者が巣立ち、今も多くの役者が現役で学んでおります。私の「芝翫」襲名披露公演の際も、口上のために舞台にずらりと並んだ歌舞伎役者20余名のほとんどが校友もしくは保護者という壮観でした。青山学院出身の歌舞伎役者で一座が組めるほどの、歌舞伎界とのご縁の深さを感じずにはおられません。今回、共に連獅子を務めました息子3人も青山学院の校友です。毎日礼拝を受けていた懐かしい青山学院講堂で今度は自分が演じる側に回るということで、彼らにとっても『祝いに集う青楽歌舞伎』はひときわ思い入れがあるものと聞いております。

今回の公演の収益は、在校生のための返済不要の「青山学院万代基金」の給付型奨学金に充てるチャリティー公演とさせていただきました。「生徒・学生の学びを止めない」というこの大切な取り組みに、出演者と学院連携本部の方々のお力添えをいただきながら、少しでも貢献できますことを光栄に思います。今後も一同で芸に精進してまいりますので、この青学歌舞伎が末長く続いていくことを切に願っております。

役者人生の礎にある
「地の塩、世の光」の心
歌舞伎俳優
校友
『祝いに集う青楽歌舞伎』出演者

尾上 菊之助

幼稚園から大学まで過ごした青山学院には大切な思い出がたくさんあります。まず初恋の人は幼稚園の先生でした。初等部の高学年ではラグビー部(コアラーズ)に所属してニュージーランドに遠征し、初めてのホームステイを経験しました。まだ英語を話すことのできない私でしたが、現地の方とはジェスチャーと「心」で通じ合えたように思います。この海外経験は、私にとって世界に視野を広げ、多くを吸収して学ぶ貴重な機会となりました。課外活動では、初等部「海の生活」の平戸での遠泳や、船で九州を巡る「洋上小学校」が忘れられません。歌舞伎の稽古を始めたのも初等部時代で、放課後になると、門で待ち構える母に首根っこをつかまれて稽古場に連行されました(笑)。稽古場には同学年の13代目市川團十郎白猿さんとバスで通い、帰りに2人でラーメンを食べるのがルーティンでした。高等部になるとクリスマス・ツリーの点火祭が楽しみです。誰と出かけるかでみんなソワソワしていました。私が誰と出かけたかは内緒です(笑)。

青山学院での学びは今でも私を支えています。なかでも大切にしているのは、スクール・モットーでもある「地の塩、世の光」(聖書 マタイによる福音書より)という言葉です。世の光が人を照らすように、人のために奉仕し人を輝かせることの大切さはどの世界にも通じます。歌舞伎界というとトップダウンのような印象がありますが、実際のチームはピラミッドではなくテーブルのような平面であり、テーブル全体を輝かせるためにも皆が輝くことが重要だと考えています。

私は現在、『風の谷のナウシカ』『ファイナルファンタジーX』『極付印度伝マハーバーラタ戦記』など、漫画やゲーム、インドの叙事詩などを原作とする新作歌舞伎の創作にも取り組んでいます。新作と古典とは大きく異なる分野のように見えますが、私は、古典であってもその作品を新たに作り直す感覚で向き合っています。歌舞伎では先人の作り上げた「型」を受け継ぐことが重要ですが、実は型とは心情を形にしたものです。修行を重ねて型が身に染みつくと、作者の意図や役の思いにまで考えが及ぶようになりました。今後も型を大事にしつつ心情で役に近づき、客席と舞台の境界を破っていきたいと思います。

私は「もっと芸を上達させたい」という思いを糧にここまでまいりました。夢や憧れは大きな原動力になります。後輩の皆さんも学び舎で思う存分に勉強し、自分の道や夢を見つけ、希望を持って進んでいただきたいと思います。また、歌舞伎とは、社会に出て荒波にもまれるとその魅力をより深く味わえる芸術だと思います。人生に彩りを与えてくれる古典芸能を味わいに、ぜひ劇場にも足をお運びいただきたいと思います。

尾上 菊之助さんInstagramでの青学歌舞伎のpostはこちら

青学は「素顔の自分」に戻れる
心のふるさと
歌舞伎俳優
校友
『祝いに集う青楽歌舞伎』出演者

中村 勘九郎

私は幼稚園から高等部までを青山学院で過ごしましたが、とにかくやんちゃな生徒だったと思います。初等部の日本庭園にあった池では、『仮名手本忠臣蔵』の名場面「泉水の立ち廻り」をまねし、よく橋から落ちてはびしょぬれになっていました。中等部では剣道部に所属し、クラブ対抗リレーに出場しました。バトンの代わりに竹刀を持ち、剣道着姿で走るのですが、途中でインパクトを狙ってわざと転んだら大ウケしました。調子に乗って何度も繰り返した結果、左手を骨折してしまい、1週間後の『土蜘』の舞台ではギブスをつけた手で胡蝶を踊りました。高等部1年生の文化祭ではお化け屋敷を企画しました。アイデアは、父(18代目中村勘三郎)と行ったフロリダのディズニーワールドのお化け屋敷から着想を得ました。照明はブラックライト、白塗りメイクに加え、ロックバンド『マリリン・マンソン』の曲を爆音で流すと、あちこちで悲鳴が上がり、気分が悪くなって保健室に行く人も続出するほど、「お化け屋敷」として大成功!観客投票で1位を獲得し、1年生では異例の大衆賞を受賞しました。

しかし、やんちゃに過ごしていただけではなく、読書の楽しさに目覚めたのも青学時代です。初等部の担任の先生が芝居を観にいらっしゃるたびに、必ず本をお土産にくださり、感想をお伝えしないと申し訳ないと思って毎回必ず読んでいました。そうするうちに、自然と本に親しむようになり、その経験が芝居の脚本や台本を読み込む力にもつながりました。当時の先生や同級生は今も芝居に来てくださいます。

青山学院では多くを学びました。特に大切にしているのは「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。叩きなさい。そうすれば、開かれる。」(マタイによる福音書/ 7章 7節)という言葉です。自分から行動に移さなければ何も起きない、と理解しています。その思いで実現したのが、劇団「新宿梁山泊」による『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』(唐十郎作)への出演です。唐氏のテント芝居は父の憧れでもありました。今年は父の13回忌に当たります。この舞台はよい追善になったのではないかと思います。

私は青学が大好きで、本当に良い学校だと思っています。今回の公演を通じ、大切な母校に少しでも恩返しができれば幸いです。私は芸名と本名との2つの名を持ち、「勘九郎」と呼ばれることが日常の大半を占めています。そうした生活の中、本名の「波野」に戻れるのは学校時代の友達と過ごす時だけです。後輩の皆さんにも、とにかく学校生活を楽しんでもらいたいと思います。

歌舞伎の「人情」に見た
サーバント・リーダーシップ
TBSアナウンサー
青山学院大学 文学部 英米文学科 卒業
『祝いに集う青楽歌舞伎』総合司会

江藤 愛

青山学院創立150周年、誠におめでとうございます。青学で過ごした4年間は私の礎であり、『祝いに集う青楽歌舞伎』の会場となった青山学院講堂にも数々の思い出があります。トークショーで尾上菊之助さんと中村勘九郎さんから歌舞伎の魅力について伺い、他者に尽くすという「人情」の心は、青学が大切にしているサーバント・リーダーの姿にも通じるように感じました。また、中村芝翫さん、橋之助さん、福之助さん、歌之助さんによる『連獅子』では生の迫力に圧倒されるなど、今までになく歌舞伎を身近に感じる貴重な機会となりました。皆さまにとりましても、今回の青学歌舞伎が素晴らしい思い出の1ページとなりますように。

当代の歌舞伎名優たちから引き出した
「青学愛」
演劇ジャーナリスト
青山学院大学 経済学部 経済学科 卒業
『祝いに集う青楽歌舞伎』
パンフレット インタビュアー

小玉 祥子

大学時代は歌舞伎研究部に所属し、記者として入社した新聞社では演劇も担当しましたが、時を経た母校で歌舞伎に関わる仕事をするとは思いもよらず、ご縁をいただけたことに感謝します。これまでも仕事を通じ尾上菊之助さんと中村勘九郎さんにお目にかかる機会は何度もありましたが、青山学院在学中のお話をまとめて伺うのは初めてで、楽しそうに思い出を語られるお姿が新鮮でした。今回、親子で『連獅子』を踊られた中村芝翫さんもしかり、皆さんのお言葉の端々から母校愛があふれ出ていました。青学歌舞伎をきっかけに劇場に足を運ばれる校友が増えればと願います。

『祝いに集う青楽歌舞伎』の運営を支えた教員と学生たち

学生たちの芸術への情熱を刺激した『祝いに集う青楽歌舞伎』の熱気と感動 青山学院大学
文学部 比較芸術学科 教授(日本近世演劇)

佐藤 かつら

学生たちは当日の入場案内や配布物の準備を担当しました。公演前日には中村芝翫さんのご厚意により舞台稽古を見学しました。俳優、演奏家ほか、多くの関係者が一体となって公演を作り上げる姿を間近に見て、舞台制作の一端を体感できたことは貴重な学びでした。さらに当日は観客としてだけではなくお客様を迎える立場も経験したことで、よりよい観劇環境を作るための動きや気配りなどにさまざまな知見を得られたと思います。何よりも150周年記念という、通常の公演では味わえない独特の熱気に包まれた会場での歌舞伎の鑑賞について学生たちは特別な感慨をもって受け止め、それぞれに芸術を学ぶ意欲をかきたてられたことを感じました。

私は普段の研究では幕末から明治期にかけての歌舞伎の変容を調査しています。近代化のうねりのなかで人々にとって歌舞伎がどのような存在となっていくのかを、かつて存在していた多くの劇場や女性による歌舞伎などを中心に調べています。今回、公演のパンフレットの作成に関わる過程で、青山学院と歌舞伎との関わりを改めて知ることとなりました。特に興味深かったのは、1950年から70、80年代頃にかけて大学に「歌舞伎研究部」という学生団体が存在していたことです。プロの歌舞伎俳優に教えを受けながら学生たちだけで公演する活動を主に行っていました。部員は歌舞伎俳優の子女ではなく皆一般家庭出身の学生だったということです(OBの方々に直接伺いました)。青学だけでなく早稲田や明治など都内の各大学にもこうした活動があったそうです。当時の世の中における歌舞伎の影響力の大きさや、公演にかける学生の熱意を実感することができました。この経験は自分の研究において大変貴重でした。

青学歌舞伎公演当日は青学講堂に集った先輩方、現役学生ほか、すべての方々から歌舞伎への熱意が発せられ、会場全体を包み込みました。心躍る一日でした。

学生が見た『青学歌舞伎』の舞台裏と未来への想い

【ゼミ生】
文学部 比較芸術学科 4年
黒澤 美澪奈


私は『祝いに集う⻘楽歌舞伎』に学生として携われたことを心から感謝しています。佐藤かつら先生からゼミ生が運営に参加できると伺ったとき、この絶好のチャンスを逃してはならないと思いました。先生から、古典芸能を学ぶうえで作品に実際に触れることの重要性を教えていただいていたからです。

本番前日に、中村芝翫さんのご厚意で『連獅子』の舞台稽古を見学させていただきました。青山学院講堂に松羽目の舞台と下手客席に花道が作られているのを見て、「とうとう青学に歌舞伎がやってきた!」と嬉しくて高鳴る気持ちを抑えられませんでした。歌舞伎座とは違う青山学院講堂で、芝翫さんと中村橋之助さんが息を合わせ、互いに声をかけ合い、踊りや立ち位置を素早く調整していく姿がとても印象的でした。稽古後、私たち学生を舞台に上げてくださり、舞台や衣装について丁寧に説明していただいたことは特別な体験となりました。

当日お手伝いをしていて気づいたのは、ご来場された皆様がとても生き生きとしていたことです。幅広い年齢層の方々が『青学歌舞伎』を楽しみに、キラキラとした表情をされて会場へ入っていく姿を見て、入場整理をしている私も幸せな気持ちになりました。また、青学の先輩方の母校に対する熱い想いや、歌舞伎を新しい世代に受け継いでいく努力を惜しまない姿勢にも感動しました。それは、私たち学生が古典芸能とどう向き合い、学ぶべきなのかを改めて考えさせられる体験となりました。この恵まれた環境で学べることに感謝し、誇りを持って、今後も学びを深めていきたいと思います。

外国人留学生に青学が誇る日本伝統文化の魅力を伝える取り組み

『見る』ものから『実践する』ものへ—「青学歌舞伎」が描くコミュニティの力 青山学院大学
総合文化政策学部 総合文化政策学科 准教授(音楽民族学、芸能文化論)

KUSHELL, Michael(クシェル, マイケル)

「歌舞伎は『見る』ものではなく、『やる(実践する)』ものだ。」 私は留学生として日本に住み始めて以来、この言葉を標語とする「地歌舞伎」、つまり地域の素人歌舞伎を研究してきました。この言葉どおり、地歌舞伎の公演は地域全体が関与して作り上げる祝祭的なイベントです。地元の役者たちは全力で演技に取り組み、また観客は掛け声やおひねりで舞台に立つ仲間を応援します。一方、舞台裏では多くの支援者がその成功を支えています。

このような地域特有の協力のエネルギーが、青山学院創立150周年を記念して開催された「青学歌舞伎」でも鮮やかに表現されていました。渋谷という都会の中心地に位置する青山学院で行われたこの公演には、著名な歌舞伎役者たちが出演し、圧倒的な技芸で観客を魅了しました。しかし、9月28日に青山学院講堂で行われたこの公演が特別だった理由は、それ以上に「地域的」な一体感にあります。青山学院出身の「地元の英雄」である役者たちを、学校コミュニティが熱狂的に迎え、役者たちはそのエネルギーを舞台上から観客へ返すという循環が生まれていました。また、多くのボランティアが舞台裏で尽力し、イベントを大成功へと導きました。

公演前、青山学院大学の外国人留学生向けに英語による事前学習を行う機会をいただきました。その多くが初めて歌舞伎を鑑賞する学生たちでしたが、私は自分の地歌舞伎での経験を踏まえ、歌舞伎を「高尚な芸術」として紹介するのではなく、「生きた実践」としてその魅力を伝えました。この講義を通じて、学生たち自身が公演に積極的に参加することを期待しました。

幕が上がると、観客が俳優の屋号を大声で呼ぶ「成駒屋!」という掛け声に包まれる中、圧倒的に美しい「獅子」たちが目の前に現れ、学生たちは大興奮。見得(みえ)が決まるたびに驚きの声を上げ、感動を共有し、青学コミュニティの一員として声援を送るなど、「見る」だけでなく「やる(実践する)」歌舞伎を体験した姿は何より嬉しかったです。私自身も、青学コミュニティの一員としてこの貴重な舞台に一緒に参加できたことは一生忘れません。

外国人留学生を特別に招待、英語レクチャーと青学歌舞伎で体感する日本文化の魅力

クシェル准教授の事前レクチャー(公演当日の午前中にインターナショナルコモンズで開催)

【歌舞伎への扉を開く—クシェル准教授の事前レクチャーと感動の『連獅子』体験】

国際政治経済学部 交換留学生
(フランス・グルノーブル政治学院)
Elfie Climent(エルフィー・クリメント)


歌舞伎公演への参加は、演劇・音楽・舞踊を融合し、恋愛や悲劇、英雄譚を描くという、日本の濃密な伝統芸能に初めて触れる機会となりました。
事前のレクチャーでは、歌舞伎の歴史や特徴が丁寧に解説され、公演をより深く楽しむためのガイドとなりました。

レクチャーは17世紀初頭に始まった歌舞伎の歴史から、庶民の娯楽が洗練された芸術に成長してきた過程に及びました。マイケル・クシェル准教授は情熱的に講義され、豪華な衣装や化粧の細部についての話も興味深く、特に男性が女性役を演じる「女形」文化やその厳しい稽古の話は、舞台の理解を一層深めるものでした。

「連獅子」の幕が上がると、レクチャーから本番への移行がまるで魔法のようで、鮮やかな衣装やダイナミックな振り付け、力強いセリフが印象的でした。俳優の動きは緻密に計算され、生演奏の伝統音楽と一体となり、幻想的な空間が広がりました。特に、獅子役の俳優が頭を振り続けるシーンでは、その耐久力と正確さに驚き、歌舞伎への情熱と芸術性の高さを感じました。

交換留学生として、このような文化的意義のある公演に参加できたことは非常に光栄でした。日本の伝統への深い洞察を得ることができ、観客の反応や声援が響く一体感は新鮮で、公演を一層楽しむことのできる要素の一つでした。事前レクチャーは、ただの知識提供にとどまらず、舞台への理解を深める重要な役割を果たしていました。

このような貴重な機会を提供してくださった国際センターと青山学院大学に心より感謝いたします。