AGU NEWS 特集

理工学部“最前線” にようこそ!
世田谷から相模原へ ~ラボの中の未来~
2026.5.21

理工学部60周年。その「最先端」を発信

2026年2月23日(月・祝)、「理工学部60周年×Meet up in AGU@SAGAMIHARA」を行いました。「Meet up in AGU」は、本学の研究を広く発信し、産学連携や社会貢献への機会創出を目指す場です。60周年記念となる今回は「最前線にようこそ!~ラボの中の未来~」をテーマに、理工学部の「今と未来」が多角的に紹介されました。

開催報告:理工学部60周年×Meet up in AGU @SAGAMIHARA

理工学部長
理工学部 電気電子工学科 教授

黄 晋二

2000年、東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 博士課程修了。東京大学 博士(工学)。東京大学助手、東北大学助手、奈良先端科学技術大学院大学准教授を経て、2013年、青山学院大学理工学部 電気電子工学科准教授に着任し、2018年から教授。ナノカーボンデバイス工学研究所長。専門は機能性材料の結晶成長とデバイス応用。グラフェン(炭素原子で構成されたシート状の材料)を用いた透明導電膜とそのデバイス応用に関する研究開発に取り組む。応用物理学会、炭素材料学会、ニューダイヤモンドフォーラム等の学会に所属。

2025年度に、青山学院大学理工学部は設置60周年を迎えました。1965年に廻沢キャンパスに設置され、1971年に世田谷キャンパスに改称、世田谷キャンパスと厚木キャンパスが閉学された2003年に理工学部は相模原キャンパスに移りました。

2026年2月23日(月・祝)に開催した60周年記念イベントは、校友の方々に相模原キャンパスへ足を運んでいただき、現在の理工学部を見てもらいたいという思いを込めて企画しましたが、研究についてもお知らせしたいと考え、リエゾンセンターが毎年開催している研究シーズ発表イベントMeet up in AGUと併催する形で実施しました。

開催日の午前中にプレイベントを実施しました。研究施設・研究室見学会では、機器分析センターと10研究室が公開され、来場者の方々に理工学部の研究環境の一端を見ていただきました。ウェスレー・チャペルでは大学宗教主任の和寺悠佳先生により60周年記念礼拝が執り行われ、多くの参列者に恵まれました。説教の中で和寺先生は「テイクオーバー(引き継ぎ)」という言葉を使われました。ウェスレー・チャペルのステンドグラスとパイプオルガンは厚木キャンパスから引き継がれていますが、理工学部が世田谷や厚木からさまざまなものを引き継いで現在に至っていることに思いが及びました。食堂では、世田谷時代の懐かしのメニューを提供し、多くの方々に特別なランチを召し上がってもらうことができました。あらかじめ、授乳・おむつ替えスペースを用意していることをお知らせしていましたが、小さなお子様を連れて家族で来場された校友の方々が多く見られました。初めて相模原キャンパスを訪れたという世田谷時代の校友の方々も多く、幅広い世代の校友の方々にお越しいただくことができました。正門でプログラムを配布しましたが、用意した500部が無くなるほどの多くの来場者に恵まれました。

午後からメインイベントである講演会を開催しました。受付で来場者の方々に60周年記念クリアファイルを配布しました。元素周期表をモチーフにしたクリアファイルは化学・生命科学科の長谷川美貴先生が発案・プロデュースしたもので、イラストレーターの揚げ鶏々さんによるデザインです。記念クリアファイルは来場者の皆さまにとても好評でした。

理工学部60周年記念クリアファイル

講演会前半のプレナリーセッションでは、冒頭でリエゾンセンター長の戸辺義人教授、稲積宏誠学長、理工学部12期生の鵜飼眞常務理事にご挨拶いただき、その後、学部長の私が「青山学院大学理工学部の現在地と未来」と題した講演を行いました。理工の大学院活性化の取り組みについて紹介し、授業料免除等のさまざまな支援制度を整備した結果、博士前期課程(修士課程)への学内進学率が50%を超えたこと、博士後期課程の学生数が飛躍的に増加したこと、これらが理工学部全体の研究活性化につながっており、国際的に高く評価されている研究が活発に行われていることなどを紹介しました。また、2026年度入試から開始した理工系女子特別入学者選抜など女性比率向上への取り組みについても紹介しました。2025年度の理工学部の女性比率は約20%であり、世田谷時代と比べて格段に増えていますが、国際的にはまだ低い水準であり、継続した取り組みによって女性比率をさらに高めていくことを目指しています。

関連リンク:AGU NEWS 特集《固定観念を脱して「好き」を学びに》

特別プレナリー講演として、青山学院大学名誉教授の秋光純先生に「青山学院大学時代の思い出」という題目でご講演いただきました。秋光先生のご専門である超伝導の研究についてお話しされましたが、特に2001年に秋光研究室で発見され、国際的に大きな注目を浴びた鉄系超伝導体 MgB2(二硼化マグネシウム)に関するトピックは、当時の熱量が伝わる迫力のあるものでした。会場には秋光研究室出身の方々がたくさん来られており、先生が青学時代の思い出を語る場面では優しく暖かい雰囲気に包まれ、秋光先生と学生らとの信頼関係の中で多くの素晴らしい成果が創出されたことが伝わってきました。最後に「超伝導転移温度(超伝導になる温度)は、運×根性×アイデアで決まる」とお話しされましたが、先生から「優れた研究成果を得るために(あきらめない)根性を持ちなさい」と鼓舞していただいたように感じました。

秋光純名誉教授による特別プレナリー講演

プレナリーセッションの最後に、昨年度からスタートした理工学部向け寄付制度「理工FUTURE」を紹介し、支援をお願いしました。その際に上映した60周年記念映像作品「理工FUTURE」がYouTubeで公開されていますので是非ご覧ください。プレナリーセッションは定員300人の教室で行われましたが、多くの来場者に恵まれ、他教室から椅子を運んで座ってもらうほどの大盛況となりました。

講演会後半は Meet Up in AGUとして「最新研究トピック紹介」を実施しました。4会場において7学科の研究発表が行われ、各学科出身の校友の方々が最新の研究成果を真剣に聴講されていました。この後、ポスターセッションが開催され、17件の有志教員による発表と併せて、本学が採択されている国立研究開発法人科学技術振興機構の次世代研究者挑戦的研究プログラム事業「AGU Future Eagle Project」の支援を受けている博士後期課程学生11人が発表を行いました。ポスターの前で活発な議論が行われつつも、教員と校友とが懐かしい話に盛り上がる場面もあり賑やかなポスター発表となりました。

講演会後、会場を町田のホテルへ移し、記念懇親会を開催しました。校友、寄付者、退職教職員、現役教職員ら約120人が集いました。理工学部の第1期生である薦田博常務理事に乾杯の挨拶をお願いしましたが、「入学式翌日に廻沢キャンパスへ行ったところ、看板さえ無く工事現場のような場所で理工学部とは分からなかった」とお話しされ、会場に和やかな笑みが広がりました。参加者らの交流の中、功労者スピーチやカレッジソング合唱などが盛り込まれた和やかな懇親の時間となりました。

今回の理工学部設置60周年記念イベントでは、本学理工学部出身の教員をはじめ、多くの教員や事務職員の方々のサポートを受けながら準備を進め、盛況なイベントとして実施することができました。ご講演を快くお引き受けくださった秋光純先生をはじめ、ご協力いただいた皆さまに心から感謝申し上げます。理工学部が今後75年、100年と発展し続けていけるよう、未来へとテイクオーバー(引き継ぎ)できるように尽力していく所存です。今後も引き続き、理工学部へのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

プレイベント

午後のメインイベントに先立ち、午前中には「研究施設・研究室見学会」のほか、「理工学部60周年記念礼拝」を執り行いました。あわせて食堂での「サービスランチ」の提供も実施され、午後の本プログラムに向けて活気あるスタートとなりました。

研究施設・研究室見学会

校友とそのご家族を含む多くの方々にご来場いただき、本学の理工学部が進める最先端の研究を直接体感していただける貴重な機会となりました。

化学・生命科学科 長谷川研究室
化学・生命科学科 平田研究室
電気電子工学科 須賀研究室
電気電子工学科 野澤研究室
機械創造工学科 田崎研究室
情報テクノロジー学科 伊藤研究室

理工学部60周年記念礼拝

理工学部宗教主任の和寺悠佳准教授が、ウェスレー・チャペルにて理工学部60周年記念礼拝を執り行いました。

サービスランチ

食堂にて、世田谷キャンパス時代の食堂メニューを再現したビーフシチューをはじめ、サービスランチをご提供しました。

【特別プレナリー講演】青学時代の思い出

青山学院大学名誉教授の秋光純氏が、特別プレナリー講演を行いました。世田谷キャンパス時代の懐かしい思い出までが語られ、満員の会場は和やかな空気に包まれました。

青学時代の思い出 青山学院大学名誉教授
岡山大学特任教授
電気通信大学客員教授
秋光 純 1970年東京大学大学院理学系研究科博士課程中退。東京大学物性研究所助手、青山学院大学助教授、教授を経て、2025年青山学院大学名誉教授。超伝導体や磁性体の研究に従事。

本日は、私の青学時代の思い出を、専門分野である「超伝導」の研究と共にご紹介したいと思います。

私の研究生活は大学院博士課程の時から始まり、MnTiO3という磁性体の2次元準弾性散乱を、中性子回折法を用いて測定したことからです。その後、東京大学物性研究所の助手となり、伊藤助教授と偏極中性子回折装置を立ち上げ種々の磁性体の研究を行いました。その中で、2次元強磁性体K2CuO4の軌道整列という興味深い現象を直接検証することに成功しました。

その後、青山学院大学助教授に就任しましたが、中性子回折という研究をするための大型装置だけでは多くの学生の研究テーマを与えることには困難を感じ、少しずつ「新しい超伝導体の探索」という研究テーマに変えていきました。一方、担当した授業を通して学生に教えることの面白さを実感しました。その後は学生と飲みに行ったり、湘南国際村センターやその他で研究発表会を開催したり、年1回わが家に招待したりと数々の思い出が生まれました。

青学時代における私の自慢は、おそらく青学の研究室の中で当時最も多く博士前期課程の学生を輩出したこと、また多くの学生が博士後期課程に進んだということです。私の研究室には成績が良い学生だけでなく、途中で留年してきた学生等、多くのバラエティーに富んだ学生がのびのびと研究したこと、また研究室の仲間うちで結婚したカップルも多く、個性的な学生に囲まれた研究生活はとにかく楽しいものでした。

ここからは少し「超伝導」の研究に関するお話をいたします。
超伝導というのは、特定の物質をある温度(超伝導転移温度Tc)まで冷却すると電気抵抗がゼロになるという現象です。ここで注意していただきたいのは、わたしたちの知る多くの金属は抵抗があり、いわゆる「オームの法則」が成り立ちます。従って抵抗=0という性質は特定の物質しか出現しないということで、超伝導現象というのは「古典物理」では説明できず、言い換えれば「量子的な現象」であるということです。この現象は1911年に物理学者のHeike Kamerlingh-Onnes氏[図1]が水銀を用いた実験で発見したもので、超伝導下ではマイスナー効果という完全反磁性(わかりやすく言えば磁場が超伝導体の中に侵入しないこと)も現れます。リニアモーターカーにも応用されているこの特性は1933年に W. Meissner氏とR. Ochsenfeld氏によって発見されました。

図1

以降多くの研究者が超伝導物質の発見に挑み続けてきました。物質の探索にあたっては、アメリカの物理学者Bernd T. Matthias氏が掲げた「酸化物は適さない」という指針が重視されていましたが、1986年に大事件が起こりました。IBMチューリッヒ研究所のJ. G. Bednorz氏と K. A. Muller氏が銅酸化物で新しい超伝導体を発見したのです[図2]。
さらにPaul Ching-Wu Chu氏がYBa2Cu3>O7-δという酸化物の超伝導体を発見し、物理学の世界は大騒ぎとなりました[図3]。

図2
図3

[図4]を見ていただければわかるように、この銅酸化物が見つかることによりTcの上昇がいかに急激であったかということがわかります。

次にどうしたらよいかを考えたとき、私がまず第一に考えたことは、La3+やBa2+などとイオン半径が近いもので同じような化合物が作れないかということでした[図5]。

図4
図5

しかし残念ながら、候補のイオンのHg2+、Tl3+、Cd2+等は毒物であり、学生が多い研究室では万一のことが起こったらという危険性があるため試みることをやめ、試みたのはBi3+のみでした[図6]。この実験ではBi2Sr2CuO6というTc=8Kの超伝導体を見つけましたが、このTcは低くほとんど注目されませんでした。

ところがその後、前田氏により、Bi-Sr-Ca-Cu-O でTc=110Kの超伝導体が発見されたのでした[図7]。実はこの発表の前に私の研究室の学生がCaを入れたらどうかと提案があったのですが、その当時の私はSr2+の中にCa2+を入れても2種のイオンが固溶して新しい物質はできないだろうと思い込んでおり、実験を行いませんでした。これは私がその当時の常識にとらわれていたせいでまさに痛恨の極みでした。

図6
図7

そこで心機一転、研究室全体で酸化物のみに限定せず、もう少し幅広い視野で超伝導体を探索しようと方針を変えました。これが功を奏して多数の発見が続きました[表1][表2]。

表1
表2

その代表的なものがMgB2という超伝導物質です。この結晶は蜂の巣型の格子構造を持ち、絶対温度39Kという比較的高い温度で超伝導を示します。当時の研究メンバーは、銭谷勇磁君、村中隆弘君、中川鑑応君、そしてこの物質を発見した永松純君です。私が授業をしている講義室に永松君が駆け込んできて「先生、見つかりました!」と知らせてくれました。教室内の学生たちが大きな拍手をしてくれたことを覚えています[図8][図9]。

図8
図9

なお、Bernd T. Matthiasはほぼ全ての金属二硼化物(MB2タイプ)について研究していたのですが、このMgB2だけはなぜかその対象から漏れていました。その結果が今回の発見につながったとも言えますので、研究には「運」もあるように思います[図10]。

超伝導の応用は、MRIなどの医療技術、リニアモーターカーなどの輸送、情報技術など多岐にわたります。特にエネルギー分野では、自然エネルギーを効率的に活用する「超伝導地球電カネットワーク」の基盤技術として大きな期待が寄せられています[図11]。

図10
図11

私は研究に必要な要素を「運×根性×アイデア」の掛け算で表現しています[図12]。運を引き寄せるためにも粘り強く挑戦を続けることが大切です。また、私は「夜明け前が一番暗い」という言葉を励みに今も研究を続けています[図13][図14]。皆さんもぜひ頑張ってください。

図12
図13
図14

「理工FUTURE」(新しい募金プロジェクト)の紹介

「理工FUTURE」とは、学生が学費を気にせず学べる環境を提供する募金プロジェクトです。理工学部の学生全体の貸与奨学金の合計金額は、1年間で5億円にのぼります。この現状を鑑み、新しい募金プロジェクト「理工FUTURE」を立ち上げました。理工FUTUREへの募金は、教育研究活動の活性化や教育環境の整備、学生のきめ細やかな支援を目的として、主に下記4点の使途で活用します。

①経済的理由で学びを諦めないための修学支援
②国際化推進のための海外研修等の支援
③学生の女性比率を向上するための支援
④若手研究者の研究支援

理工FUTUREは、理工分野の専門性を通じて人類社会に貢献できる人材を育み、さらなる成長と新たな挑戦を推進するために活用されます。皆さまからの温かいご支援が、理工の未来を創ります。

【寄付の詳細はこちら

【お問い合わせ先】
学校法人 青山学院 学院連携本部
電話:0120-900-420(平日 9~17時)
E-mail:ag-info@aoyamagakuin.jp

最新研究トピック紹介

「最新研究トピック」では理工学部7学科の研究者が登壇し、各分野における最先端の研究を発表しました。発表は4つの会場に分かれ、来場者が自身の興味に沿ったテーマを選んで聴講できる特別講義形式で実施。質疑応答も活発に交わされました。

【プレゼンテーション】
がん低酸素を標的とする
ケミカルバイオロジー

理工学部 化学・生命科学科 教授
田邉 一仁

<プロフィール> 青山学院大学理工学部化学・生命科学科教授。1997年京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻博士前期課程修了。博士(工学)。京都大学大学院工学研究科物質エネルギー化学専攻助教、准教授を経て現職。京都大学・キャノン協働研究プロジェクト(CKプロジェクト)「高次生体イメージング先端テクノハブ」において「分子プローブ」開発研究に従事。

<概要>

当研究室では、ケミカルバイオロジー、なかでも有機化学と生物化学の境界領域に関する研究を行っています。特にがんをターゲットとしてDNAの合成のノウハウを活用した診断薬や抗がん剤の開発を進めています。本日はその研究の中から2つの事例をご紹介します。

まずご紹介するのは「がんの診断薬」の開発です。健康診断などのCT画像上でがん部分だけを発光させることができれば画像診断の精度を大幅にアップできるのではと考え、研究をスタートしました。

「がん組織は著しい“低酸素環境”を示す」という現象に着目して開発したのが「ルテニウム」を用いた化合物です。ルテニウムは、低酸素環境ではりん光発光を示し有酸素環境では消光するという特徴を持ちますので、この化合物を投与すればがんの部分だけが発光するはずです。

実験として、まず健康なマウスの足を紐で縛り鬱血させた上でこの化合物を投与しました。すると仮説通り、低酸素環境となった鬱血部位が光りました。次はがん腫瘍を移植したマウスに化合物を投与しました。すると今度は低酸素環境である腫瘍部位が発光して可視化できましたので、この結果をもってがん診断薬の開発が成功しました。

次にご紹介するのは「抗がん剤のデリバリー機能を持ったDNA」の開発です。がん部分にピンポイントで抗がん剤を届けることができれば、より副作用が少なく効果の高いがん治療が期待できます。この新規DNAの開発は本学で独自に進めており、「デリバリー機能を持ったDNAの開発」「そのDNAに抗がん剤を付加する」という2段階で進められています。

第1段階の「デリバリー機能を持ったDNAの開発」です。
まずはDNA の塩基であるチミンに、官能基となるアルキル基を装飾しました。通常の DNAは細胞内に進入しようとしても細胞膜に跳ね返されてしまいますが、アルキル基を装飾したDNAは速やかに細胞内に進入できます。さらにアルキル基の数を増やすことで細胞内での行き先も自在にコントロールできます。

またDNAは親水性でアルキル基は疎水性ですので、両者の化合物は両親媒性となり、水中ではミセルのような凝集体=「会合体」を作ります。会合体に変化するとより膜透過性が高まるので、ますます細胞への出入りが容易になります。

さらにこの会合体は、低酸素状態の細胞内に置かれると、還元酵素反応が起こって装飾部分のアルキル基が外れ、通常のDNA に戻るという性質があります。通常のDNAに戻ると会合体崩壊を起こしますので、膜透過性が低下して細胞内から出られなくなり、その場に溜まっていきます。この性質を生かせばがん部分に選択的にこのDNAを集積できるのです。

DNAの動きを可視化するため、このDNAに蛍光色素を付加して実験しました。その結果、低酸素状態の細胞内で強く発光し、酸素濃度を上げると光が弱くなりました。つまり狙い通り低酸素細胞にDNAを集積できたわけです。こうして薬剤のデリバリー機能を持つ「低酸素集積性人工核酸(N-ODN)」が完成しました。

次は、研究の第2段階「そのDNAに抗がん剤を付加する」という工程となります。
上記で完成した「低酸素集積性人工核酸(N-ODN)」に抗がん剤ドキソルビシン(DOX)を加えます。こうして完成したのが「DOX-DNA複合体」です。

この「DOX-DNA複合体」を、ヒトの健康な細胞(有酸素細胞)と肺がん細胞(低酸素細胞)に投与して実験しました。その結果、有酸素細胞は多数が生き残る一方で、低酸素細胞はみるみる死滅していきました。これをもって「DOX-DNA複合体」は、低酸素細胞をターゲットに選択的な薬効を示すことが明らかになりました。

副作用および薬効についてはマウス実験も行いました。まず副作用について、DOXを単独投与するとマウスが痩せて体重が減少していきます。つまり高い副作用が現れたということです。一方「DOX-DNA複合体」を投与した場合、マウスの体重はほとんど減少しませんでした。つまり副作用はほぼ生じなかったということになります。

次に薬効について、マウスにDOXを投与せずにいると腫瘍は大きくなります。しかしDOXを単独投与した場合と「DOX-DNA複合体」を投与した場合では、両者ともほぼ同レベルで腫瘍の成長を抑えることができました。つまり薬剤を複合化しても高い治療効果を保つことができたと言えます。

こうした結果から、私たちは「DOX-DNA複合体」について「副作用は少なく薬効は高い理想的な抗がん剤」としての大きな手応えを得ています。

このようにがんに特異的に発生する病的な細胞に集まって機能する人工核酸は、本学で独自に開発されたものであり、今後さらなる応用が期待されます。製薬企業等との連携を模索しながら、実用化への道筋を探っていきたいと考えています。

【プレゼンテーション】
筆致が動き出すとき―
手描き表現と
コンピュータグラフィックスの融合

理工学部 情報テクノロジー学科 教授
楽 詠灝

<プロフィール> 青山学院大学理工学部情報テクノロジー学科教授。
2011年東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻博士後期課程修了。博士(情報理工学)。
米国コロンビア大学研究員(日本学術振興会海外特別研究員)、東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻助教、青山学院大学理工学部情報テクノロジー学科准教授を経て現職。光学や流体などの物理シミュレーションやその形状設計への応用等を中心として、変形物体のモデル化と数値計算に関する研究に従事。

<概要>

私はコンピュータグラフィックス(CG)の研究を専門としています。CGというと、映画やゲームの映像を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、その裏側では、数学、物理、アルゴリズム、データ構造などを組み合わせて、光の見え方や物体の動きを計算する研究が行われています。私自身はこれまで、写実的な映像を生成するための光のシミュレーションや、煙・水・砂のような複雑な物質の動きを再現する物理シミュレーションを主な研究対象としてきました。

一方でCGでは、現実そっくりの映像を作ることだけが重要なのではありません。アーティストが描いた絵の質感や筆づかいを再現し、手描きアニメーションの制作を支援することも、とても大切な研究テーマです。そこで今日は、私の主戦場である写実的な物理シミュレーションから少し離れて、最近取り組んでいる、アーティスティックなアニメーション生成技術についてご紹介します。

この一連の研究のきっかけの一つとなったのは、2017年に公開された映画『ゴッホ 最期の手紙』(原題:Loving Vincent)です。この作品は、ゴッホの油彩画のような画面を一枚一枚描き、それらをつなぎ合わせて作られた長編アニメーション映画です。ゴッホ特有の筆致、つまり絵の具の流れやストロークを表現するために、100人を超える画家が膨大な数のフレームを手描きしました。私たちは、このように大きな労力を必要とする表現を、コンピュータによってより手軽に生成できないかと考え、研究を始めました。

最近のAIを使えば、このようなアニメーションも簡単に作れそうに思えるかもしれません。しかし、実際には、一本一本のストロークを明示的に扱い、ストローク同士の向きが自然にそろうようにし、それらをアニメーションの中で時間的に一貫して動かすことは簡単ではありません。さらに、物体の動きや光の当たり方、陰影の変化に合わせてストロークを自然に変化させる必要もあります。また、深層学習を用いる方法では、多くの場合、大量の学習データが必要となり、著作権面の配慮や、アーティストが結果を細かく制御しにくいといった課題もあります。そこで私たちは、深層学習に頼るのではなく、ストロークの数理モデルと統計的な学習を組み合わせることで、アーティストが描いた少数のお手本画像から筆致のスタイルを学び、それをアニメーションに展開することを目指しました。

画面の中に流れるようなストロークを配置するには、ストロークの向き、長さ、太さ、色といった要素をうまく決める必要があります。この研究では、これらをストロークの主要な属性として扱います。特にストロークの向きについて、アーティストが描いた画像を分析してみると興味深いことが分かりました。最初は、「ストロークの向きは、光の当たり方、物体の輪郭、表面の曲がり具合などのいずれかに沿うのではないか」と予想していました。しかし実際には、アーティストのストロークは、それらの方向を単純に一つだけ選んでいるのではなく、複数の方向を場所ごとに混ぜ合わせたように配置されていました。例えば、輪郭にも近く、同時に物体内部の曲がりにも影響される場所では、ストロークがその二つの方向の中間のような向きで描かれることがあります。

言い換えると、アーティストは、光、輪郭、曲率といった手がかりの強さを見ながら、無意識のうちに「この場所ではどの方向をどれくらい重視するか」を判断しているように見えます。そこで私たちは、この無意識の判断を数理モデルとして表し、ストロークの向きだけでなく、長さや太さ、色についても同様に学習できれば、アーティストの筆致を再現できるのではないかと考えました。

ここでは説明を簡単にするために、ストロークの向きだけを考えてみます。この研究では、空間上の各点に「向き」と「大きさ」を持つベクトルを対応させた「ベクトル場」という考え方を用いて、ストロークの流れを表します。まず、光の方向、輪郭の方向、表面の曲がり具合などから、いくつかの基本的な方向場を作ります。次に、それらを場所ごとにどの割合で混ぜるかを計算し、最終的なストロークの方向場を得ます。

このとき重要なのは、「どの方向をどれくらい重視するか」を決める重みです。私たちは、その重みを、明るさ、曲率、輪郭からの距離といった特徴量から計算する仕組みとして学習します。つまり、アーティストが手本画像の中で行っている方向の選び方を、コンピュータが学習するわけです。この数理モデルを使うことで、わずか数枚のサンプル画像から、物体の変形や光の変化に追従し、アニメーションの中でも一貫したストローク表現を生成できるようになります。

一度学習したスタイルは、別の対象物にも適用できます。例えば、三次元モデリングで作られたサルの像に対して、ハイライトや影の色、ストロークの入れ方に関する情報を与えると、アーティストの画風に近いストロークアニメーションを生成できます。また、生き生きとした筆致を表現するには、ストロークにある程度のランダム性を持たせることも重要です。手描きでアニメーションを作る場合、ランダムな筆致とフレーム間の滑らかなつながりを両立させるのは難しいのですが、この手法では、それらを計算によって扱うことができます。さらに、物体の形が変化するシーンや、多くの部品からなる複雑なシーンにも適用できます。ここまでの研究では、サルの像のように、はっきりとした「表面」を持つ物体を主な対象としていました。

次の段階では、煙や炎のように、はっきりとした表面を持たない対象を扱うことに挑戦しました。CGではこのような対象を「関与媒質」あるいは単に「媒質」と呼びます。煙や炎は、固体のような表面を持つのではなく、空間中に濃度や色が三次元的に分布しているものとして表されます。そのため、表面物体で使っていた「曲がり具合」や「輪郭からの距離」といった特徴を、どのように定義すればよいかが問題になります。

この研究のポイントは、表面物体と媒質の「見え方」の対応関係に着目したことです。表面物体の場合、ある視線方向から見ると、基本的には最も手前にある表面上の一点が見えます。これは、数学的には、その一点にだけ重みが集中している状態として表すことができます。一方、煙や炎のような媒質では、同じ視線上にある複数の場所が少しずつ見えています。そのため、奥がぼんやり透けて見えたり、手前と奥の色が混ざって見えたりします。

この「視線上のどの場所が、どの程度見えているか」は、光が媒質中を進む距離に関する分布(自由行程分布)によって表すことができます。表面の場合に使っていた「見える一点だけを取り出す重み」を、媒質の場合には「視線上の各点がどれだけ見えているかを表す重み」に置き換える、と考えると、表面物体で定義していた特徴量を、煙や炎にも自然に拡張できます。これにより、媒質の場合でも、ライティング、輪郭からの距離、見かけ上の曲がり具合といった特徴を定義でき、表面物体に対して開発したストロークスタイルのモデル化を活用できるようになりました。

その結果、煙や炎のような対象に対しても、ストロークを用いた絵画的なアニメーション表現が可能になりました。例えば、二色の煙が混ざり合うシーンや、樹木のような表面物体と煙のような媒質が同じ場面に存在するシーンにも適用できます。

今回ご紹介した「例示ベースのストロークスタイルに基づくアニメーション合成」は、大規模な学習データやディープラーニングに頼らず、少数のお手本からアーティストの筆致を学び、それを動く映像に展開するための技術です。アーティストの意図を比較的反映しやすく、CG表現の可能性を広げる方法の一つだと考えています。

ここまでの研究では、主にストロークによって物体や媒質の内部をどのように塗るかに注目してきました。今後は、輪郭線そのものをより美しく安定して表現する方法や、墨絵に見られるような、太く抽象的で力強いストロークを扱う方法にも取り組んでいきたいと考えています。

関連リンク:AGU RESEARCH「ものの動きから芸術家の画風まで、CG技術でより高精度に再現する」

【ポスターセッション】

X線で解き明かす「宇宙のレシピ」
理工学部 物理科学科
山崎研究室宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 宇宙物理学研究系 山口研究室


私たちの体や身の回りの物をつくる酸素、炭素、鉄などの元素は、星の内部で生まれ、超新星爆発によって宇宙へ広がったと考えられています。このポスターでは、そうした元素や高温のガスが放つ「X線」を手がかりに、これらの元素は、どのような場所からやって来たのか解明する研究を紹介しています。日本のX線天文衛星XRISMを用いることで、目に見えない宇宙の現象を読み解き、爆発した星やブラックホール、銀河団の姿に迫ろうとしています。

岡部圭悟さん(理工学研究科 理工学専攻 基礎科学コース 博士前期課程1年)

【ポスターセッション】

火星着陸用展開型エアロシェルの収納展開構造の設計
理工学部 電気電子工学科
外林研究室宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 宇宙物理学研究系 豊田研究室


火星着陸探査において、展開型エアロシェルは革新的な着陸技術と期待されています。打ち上げ時には小型に畳むことができ、大気圏突入前に展開し、大面積・軽量なエアロシェルを実現する空力減速装置です。本研究では折り紙から着想を得て、エアロシェルの収納展開構造の展開図を考案しました。カプセルに収納可能な構造を保ち、エアロシェル上に太陽電池を搭載する面積を確保し、使用される織布に折り目が付きにくいことを考慮し、直線の折り筋のみで設計を行いました。設計情報を継承しやすく、展開失敗のリスクの低減が期待できます。展開後のエアロシェルに凹凸を残すことで、着陸時の衝撃緩和や運用期間中のダスト堆積抑制も狙いました。

長澤致さん(理工学部 電気電子工学科4年)

ポスターセッション 一覧

【ポスターセッション(FEP奨学生)】 AGU Future Eagle Project(博士後期課程学生支援プロジェクト)は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「次世代研究者挑戦的研究プログラム」の採択を受け、既存の支援制度と新たな育成支援策を組み合わせ、「文理融合」と「国際性」をテーマに、将来新たな学術分野を切り拓く可能性を有する優れた博士課程学生の育成を目指す本学のプロジェクトです。2025年度のプロジェクトに採択された博士後期課程学生が研究概要をポスター発表しました。

10GHz帯ドップラー効果を用いた鉄筋コンクリート構造物内の鉄筋の腐食検知に向けたブリュスター角によるダイナミックレンジの向上 理工学部 電気電子工学科 須賀研究室
渡邉 泰成(理工学研究科 理工学専攻 電気電子工学コース 博士後期課程2年)
近年、老朽化が進む鉄筋コンクリート構造のような社会インフラでは、塩害や中性化による鉄筋の腐食の早期検知が重要ですが、従来手法は高価な装置、人体への悪影響および有資格者の必要性という点に課題がありました。そこで私は、コンクリート壁に対し10GHz帯域のアンテナを平行移動させることで、アンテナと鉄筋間にのみ生じるドップラー効果によりコンクリートの表面反射を抑制し、鉄筋からの反射波のみを評価可能なコンクリート内部の鉄筋の非破壊評価手法を提案しています。

渡邉泰成さん

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