AGU NEWS 特集

地球社会共生学部松永 エリック・匡史 学部長が語る
「GSC」の現在と未来
2026. 6. 18

「共生マインド」と「グローバル」がGSCの両輪

2025年に開設10周年を迎えた「地球社会共生学部(School of Global Studies and Collaboration/以下GSC)」。この変化の時代にあって、地球規模の課題に向き合い未来を創造していく「最先端の学部」の存在はますます重要性を増しています。「共生マインド」「グローバル」をキーワードに、GSCの現在とこれからをご紹介します。

地球社会共生学部長 インタビュー

地球社会共生学部長
地球社会共生学部 地球社会共生学科 教授

松永 エリック・匡史

青山学院大学大学院国際政治経済学研究科国際ビジネス専攻修士課程修了。音楽家としての経験を生かし、デジタル時代を牽引するビジネスコンサルタントとして活躍。アクセンチュア株式会社、日本アイ・ビー・エム株式会社、またPwCコンサルティング合同会社、デロイト トーマツ コンサルティング株式会社(現:合同会社デロイト トーマツ)の執行役員などを経て、2019年青山学院大学 地球社会共生学部 地球社会共生学科 教授。2023年より現職。

【1】「共生」こそがGSCの出発点

「GSCといえばグローバル」というイメージが強いですが、実は学部の出発点は「共生マインド」にあります。グローバル化の進展する現代では、環境、貧困、文化摩擦、ダイバーシティといった多くの課題が一つの国や一つの専門分野だけでは解決できなくなっているという現実があります。そうした時代に、青山学院の教育の根幹をなすキリスト教精神から導かれた隣人愛、人間の尊厳を大切にする姿勢――すなわち共生マインドを、より地球規模の文脈で実践する場として生まれたのがGSCなのです。知識やスキルは時代とともに更新されますが、目の前の他者の痛みや希望を想像し、違いを排除せずに受け止め、共に生きようとする姿勢は普遍です。むしろ分断が深まりやすい時代だからこそ、この核心はさらに重要になります。

共生の根幹となる人間性を育むのがキリスト教教育です。青山学院が掲げているスクール・モットー「地の塩、世の光」という言葉を体現するサーバント・リーダー像こそが、共生の基本となる姿を示しているからです。入学式や卒業式などの式典を含めた日々の礼拝や、全学共通教育システムの青山スタンダードの「キリスト教概論」の授業を通して、利他の心や他者への敬意と共感、平等といった共生の精神が養われます。

関連リンク:AGU NEWS 特集《必修科目の「キリスト教概論」や礼拝等を通して、⻘学マインドを知る》

共生マインドの実践を支えるのが、質の高い教育プログラムです。GSCでは「コラボレーション領域」「経済・ビジネス領域」「メディア/空間情報領域」「ソシオロジー領域」という4つの専門領域(クラスター)から高度な専門知識を学ぶとともに、半年に及ぶ東南アジアのトップ校との「学部間協定校留学(海外留学)」から豊かな体験知を得ることができます。特に注目していただきたいのは、教員の多岐にわたる専門分野と質の高さです。各専門分野における高度な学究性に加え、豊富な実務経験を備えた教員が多いこともGSCの大きな特長の一つです。

例えば、国際協力機構(JICA)や国際連合の職員として国際貢献に携わってきた教員や、ビジネスの最前線で現役として活躍している教員などによって、キャンパスでは日々リアリティーと熱気に満ちた授業が行われています。こうした環境を存分に生かすことで、学生の皆さんにはより実りある大学生活を送っていただきたいと思います。

【2】大きな成長を得られる「学部間協定校留学」

■ キーワードは「学部独自の留学」「アジア視点」

学部間協定校留学はGSCのカリキュラムの柱ともいえます。留学は原則2年次後期から半期間、東南アジアのタイ、マレーシア、インドネシアにて実施されます。海外で学び、生活し、現地の方々と同じ目線で交流する経験を通じて社会問題や共生への理解は血が通ったものとなります。

社会のグローバル化が進む今日、国内においても異文化コミュニケーションはごく日常的なものとなりました。また、環境問題や紛争といった大きな問題は国際社会との連携を通じて取り組むことが不可欠です。そのためGSCでは、海外留学はもはや一部の特別な学生だけのものではなくカリキュラムの柱としてほぼ全ての学生が経験すべきものであると考えました。異なる個性を持つ学生たちがそれぞれの視点から留学を経験し、互いの学びを共有できるという点も留学の大きな魅力です。

留学に出発する学生たちへ激励の言葉を掛けるエリック先生(写真左から2人目)。本学部では、旅立ちの瞬間まで教員が学生に寄り添い、その挑戦をサポート

留学先が東南アジアである点も重要なポイントです。従来型の欧米中心のグローバル観ではなく、多様性と成長が交差するタイ、マレーシア、インドネシアというアジア圏を起点に世界を考える。2015年の開設当初から変わらない考え方に、GSCならではの先進性と実践知があります。さらに体験知をとおして地球社会共生に資する学生の育成を目的とした留学を実現するため、各国のトップクラスの大学と提携することにもこだわりました。GSCの学生と海外の熱意ある学生が切磋琢磨しながら学ぶ環境から、グローバルな視点を持つ次世代のサーバント・リーダーが生まれます。

■ 東南アジアへの留学を支えるきめ細やかな支援体制

東南アジアの大学への留学を掲げるGSCでは、すべての学生が現地で安心して学べるよう、きめ細やかな学習プログラムとサポート体制を整えています。まず、異文化コミュニケーションの基本となる英語教育に関しては、1年次からネイティブ・スピーカーの講師による密度の高い授業を履修し、留学レベル相当のIELTSスコア取得を目指します。またリーディングやリスニングでも適宜社会的なテーマを扱います。この授業を通じて、学生は現地の方々や留学先の学生と社会課題をテーマにした深い対話を行うために必要な英語力を身に付けます。さらに4年間をとおして、コミュニケーションツールとしての英語力習得を目標に、アカデミックな英語教育を展開しています。

1年次からネイティブ・スピーカー講師による密度の高い英語教育を徹底。留学に必要な英語力のみならず、アカデミックな英語教育を展開

基礎演習Ⅰ」ではレポートの書き方などの基本的なアカデミックスキルを学びます。この授業は学生と専門分野の教員をつなぐハブ的機能を持つ場でもあり、学生が興味の広がりに応じて新たなネットワークが構築されていきます。「アジア留学入門Ⅰ」では本学部の留学制度について学部だけではなく、留学の意味、各国の文化や注意点を含め、自分の留学目的にあった大学に出願できるようになることを目指します。これら英語教育、基礎演習Ⅰ・Ⅱ、アジア留学入門Ⅰの4つのクラスは学生の居場所としての機能も果たしており、さらに各クラスの教員と学務課の職員がきめ細やかに連携してサポートを行うことで不慣れな大学生活での孤立を防ぎます。

留学先に到着すると、学生はこれまで日本で身に付けた常識とは異なる生活感覚、宗教観、経済格差、家族観などに触れ、ものごとの捉え方が複眼的な見方に変わります。こうした体験知を得た上で、現地の大学生や他国からの留学生ともに専門科目を学ぶことで、自らの体験を概念化し、社会科学の視点から再解釈していきます。帰国後には、留学先で得た異文化体験や気づきを学問として整理して、日本社会との比較を通じて問い直すことで、学びが自らの糧となっていきます。現場と理論を往復しながら思考を鍛える学習サイクルが、自分自身で問いを立てる力を育てます。GSCの独創性はこうした学びのプロセスから生まれるものです。

留学の取り組みをさらに推し進め、2028年度にはタイ・マレーシア・インドネシアの最高峰の大学の学生とともに学ぶ画期的な成果授業が開始されます。チュラーロンコーン大学(タイ)マラヤ大学(マレーシア)ガジャ・マダ大学(インドネシア)へ留学した本学学生が参加するプログラムで、半期の留学にとどまらず、帰国後の前期にオンラインで各校合同のアクティビティーを行い、後期は各校からの留学生とともに本学で学び、あわせて1年半にわたって現地学生と継続的に交流し、親交を深めるものです。社会課題を切り口に、本学を含む4大学の学生たちが協働して進めるプログラムなどを構想しています。

留学は失敗やトラブルの連続です。しかしそれを乗り越えることでチャレンジする自信と勇気が生まれ、成長のサイクルが生じます。留学を経ることで、ある学生は相手の意見を受け止めながら自分の考えを述べる姿勢が大きく育ちました。別の学生は「社会には正解か不正解かでは単純に割り切れない現実があり、だからこそ対話が必要なのだ」と語るようになりました。留学を終えた学生からよく聞かれるのが、「海外では、日本人としての考えを問われる場面が多い」という声です。外国人の友人との日常会話の中で「今の社会問題や過去の戦争について、あなたは日本人としてどのように考えるのか」と問われる、これこそまさにグローバルな視点が育つ瞬間であり、学生にはこれらの大きなテーマに対しても自分なりの問題意識を持って自分の言葉で語る力を磨いてほしいと思います。さらには、何か問題が起きた時に「どちらが善か悪か」を裁くのではなく「自分たちはどうすれば良いのだろう」と前向きに話し合えるような学生になってほしい。そこに全員留学の強みが生きてくると思います。

【3】GSCの新たな取り組み

■ 思考力を高める「はじめて」シリーズ

2026年度は1年次の専門共通基礎科目についても新たな授業科目を開講しました。それが「はじめての哲学」「はじめての統計」「はじめてのプログラミング」「はじめてのグローバル・イシューズ」という4科目です。これらの科目は、AIを含めたITの進化により玉石混交の情報が氾濫する現代において、確かな情報を見抜く目、的確な問題意識を持つ力、主体的に共生を実現していく力を養うために設置しました。

「はじめての哲学」では、思考力を高めるためのスキルとして哲学を学びます。新たな物の考え方を体得することで、物事をより深く捉え、別の見方をし、新たな価値を提案できるようになります。実は「考える力」は共生を実践していく際にも欠かせないものです。自分で考える習慣が身に付くと感性が柔軟になり、他者への理解と共感力が深まるからです。哲学のスキルを身に付けることで、留学やゼミ、人生全般で得られる経験をより豊かなものにしてもらいたいと思います。

「はじめての統計」はデータの正しい読み解き方を学び、物事を客観的に捉える力を養うものです。授業では各自の興味のあるテーマを対象に、自分の目的に適った正しいデータの入手方法、分析、その結果の解釈に至るまでの技術を身に付けます。

「はじめてのプログラミング」では、アルゴリズムとプログラミングの学習を通して、論理思考や問題解決能力を身に付けます。オリジナルのアプリ作成などを通じ、プログラミングの楽しさを感じてもらえればと思います。

「はじめてのグローバル・イシューズ」は、経済格差や人権問題、紛争や環境問題といったグローバル・イシューズ(グローバル化の進展により国境を越えて影響を及ぼす諸課題)の入門科目です。諸課題への理解を深めるとともに、それらの課題に立ち向かうアクションについても考えます。2年次での留学をふまえ東南アジア地域を中心に学びます。

■ 学部全体でさまざまなコラボレーションを展開

GSCではまず教員から共生を示すことを考え、教員同士が率先して各種のコラボレーション(コラボ)にチャレンジしています。GSCのゼミナール間におけるコラボはもちろんのこと、アントレプレナーシップの授業やAGU Future Eagle Projectなどで、GSCのグローバルな視点と相模原キャンパス4学部(理工学部、社会情報学部、地球社会共生学部、コミュニティ人間科学部)の学部長をリーダーとした学部間コラボも活発です。さらにコラボの輪は拡大し、相模原地域にある他大学との大学間連携も進んでいます。私はこうした異領域とのコラボを「アベンジャーズ的発想」と呼んでいます。意外なメンバーが集結し、さらなるパワーを発揮するというシチュエーションに、人はワクワクするものです。学生にも、ぜひこうしたコラボから刺激を受けて「未来のために、今の学問を皆でどう変革していこうか」とワクワクしてもらいたい。その輪が広がっていけば、世界はきっと変わると思います。

*異なる専門領域やバックグラウンドを持つ個々の「知」が結集し、単独では解決することが難しい社会課題に立ち向かう、ダイナミックな共創スタイルの比喩。ヒーローがそれぞれの特殊能力を生かすように、互いの専門性を尊重し合い、シナジーを創出することで、一人ひとりの限界を超えた大きなインパクトを生み出す姿勢を指す。

【4】学生へのメッセージ

■ ボーダーレスに活躍するGSCの卒業生

企業就職、国際分野、起業など、GSCの卒業生は進路も多彩です。近年では、企業の社会貢献度が社会的に大きく問われるようになり、企業が長期的に成長するためにはESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)の観点が不可欠となっています。このESGの考え方は、まさにGSCの学生が4年間かけて体得していく共生のスタンスそのものだと言えます。さらにGSCの学生は社会課題とビジネスを切り離さずに考える力を持っています。利益だけでもなく理想論だけでもなく、現実を見ながら意味のある仕組みを考える、その視座が現代社会で求められているために、GSCの卒業生は幅広い分野で活躍することができるのです。

■ GSCは未来に向けた実践と変容の場

GSCは開設10周年を経て、新たな発展の段階に入ったと考えています。今後はこれまで以上に積極的に教育の変革と挑戦を進めていきたいと思っています。

GSCは、実践と変容を重視する教育の場です。そのため、現状に留まることなく自ら課題を見いだし、新しい価値を生み出したいと考える学生にぜひ来てほしいと思います。明確なゴールが定まっていなくても大丈夫です。むしろ社会や常識に対して漠然とした疑問や違和感を持っている人にこそ、GSCの学びは開かれています。GSCで学ぶことですべての疑問が解消されるわけではありません。しかし、学びと成長を重ねる中で、自分自身の問いの解像度は大きく高まっていくはずです。

今は、不安や分断の時代だと言われています。先行きが予測できない「VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)」に代わるフレームワークとして、「BANI(Brittle:もろい、Anxious:不安な、Non-linear:非線形の、Incomprehensible:不可解な)」が新たに注目されるようになりました。そのような時代だからこそ、「共生」という言葉がより大きな力を持ちます。現状に対して「これが現実だから仕方ない」と立ち止まるのではなく、今、何か変えられるものがあるはずです。その可能性を信じ、「まずは一緒にやってみようよ」という共生の精神を持って学び、行動してほしいと思います。

さまざまな変容を遂げる今の時代は、見方を変えればチャンスの塊とも言えます。「明るい未来を作るって、ワクワクできて楽しいこと!」――GSCでの学びを通じ、学生の皆さんにはぜひそうした感覚を持っていただき、将来はサーバント・リーダーとして世界を舞台に活躍してもらいたいと思っています。

ゼミナール紹介(AGU LiFE)

在学生・卒業生紹介(AGU LiFE)

研究紹介(AGU RESEARCH)

*掲載されている人物の在籍年次や役職、活動内容等は、取材時のものです。